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ねえ、私との旅行、楽しかった? ~元カレとの悲壮な旅行エピソード集~

2017.12.21

じゃらんニュースご愛読者の皆さま、初めまして。海坂侑(うなさか ゆう)と申します。
じゃらんといえば旅行、旅行といえばじゃらん、ということで、あのじゃらんニュースにエッセイを掲載していただけるなんて大変光栄です!……が、実のところ私は類稀なる“旅行下手”なのです。

今回は、パスポートも運転免許も持っていない、15分以上かかる距離は歩けないし、修学旅行のスケジュールすら守れたためしのない私の数少ない旅行体験のうち、特に思い出深い、かつての恋人たちとのエピソードを二つほどお話しします。

エピソード1:彼と女友達がイチャつく様をシーサーの表情で眺め続けた沖縄旅行

沖縄旅行

先述したようにパスポートを持たない私が今までに足を運んだ最も遠い地は、日本の南端、沖縄です。
それは大学時代、所属していたサークルの同期旅行においてですが、同時に、当時交際していた彼との初めての旅行でもあったのです。

この2泊3日のために私はかなり攻めた水着を購入し、普段は手にも取らないギャル雑誌に載っていたリゾートワンピもゲットしました。体重だって3kg落としたし、ガイドブックに印をつけて「国際通りのこのショップで、彼とお揃いのアクセサリを買えたらいいな」なんてシミュレーションも欠かしません。

そうした万全の態勢で降り立った日本が誇る亜熱帯のリゾート地は、自由なムードと熱気に満ちて、人々を開放的な非日常へと誘っているかのようでした。

「よーし!私も彼と最高の思い出をつくってハチャメチャにエンジョイしちゃうぞー!」
と、意気込んでみたはいいものの、おかしい。彼の姿がどこにも見当たりません。

彼は……私の愛する彼は……?

やっと見つけてみると、なんということでしょう。彼もまた、日常たる私という恋人のことなどさっぱり忘れ去ってしまったかのように、女友達とブルーシールアイスクリームを分け合っていたかと思えば、女友達に海ブドウの試食をあーんしてもらっているではありませんか。

さらにはふたりでバナナボートにまたがってキャッキャウフフとじゃれ合っていたかと思えばひとつの浮き輪につかまって洞窟を探索したり、宿のコテージで女友達とひとつのオリオンビールを飲みながらBBQに興じた挙げ句、夜更けに庭まで抜け出して満点の星空をふたりっきりで眺めていたりするではありませんか。

それ! ぜーんぶ私が彼とやりたかったやつー!!

プライドが邪魔をして、ウワーン! やめてー!! とすっかりイイ雰囲気のふたりの間に割って入っていくこともできません。結局、悲しさと悔しさを必死に噛み殺したシーサーのような表情で泡盛を延々とあおりながら、どうでもいい人たち、もとい、他の仲間たちと朝方までUNOを繰り返すことしかできませんでした。

……それ以降の記憶は、ほとんどありません。

残ったのは盛大な二日酔いとアルバイト先への土産に買った紅いもタルト、似合わない三角ビキニやリゾートワンピ姿の私が引きつった笑顔で写る集合写真、悪ノリした同級生に握らされたゴーヤの形を模したコンドーム。そして、視界の片隅に常に焼きつけていた、彼と女友達の、輝かんばかりの最高の笑顔の数々。

誰の目にも明らかな、最悪な旅行です。でも、ひとつだけよかったことがあるとすれば、それは大好きな彼のいろんな笑顔をたくさんたくさん、見られたことでした。向けられた先が無念にも私でなかったというだけで、本当にかっこよかった。本当に可愛かった、愛おしかった。私は彼のことが、やっぱり大好きでたまらなかったのです。

関西空港で一同解散となった後、素知らぬ顔で帰路につこうとする彼の首根っこをひっ捕まえて、ロビーで3時間ばかりの反省会、というかつまりは尋問をしました。私はしばらく泣いて、彼はしばらく謝り倒して、それからはふたりとも押し黙ったまま、搭乗口へ消えゆく数多の旅行客を眺めていました。

大好きな彼とやっとふたりきりになれた。やっと隣に座れた。彼の笑顔は見られなかったけれど、今この瞬間の彼の困ったような表情や憮然とした声、疲れ切った仕草は全部、私だけのもの。それすら本当に嬉しくて安らいで、2泊3日の沖縄旅行の中で、私にとってはその空港での3時間が唯一の、満ち足りた時間になりました。

エピソード2:観光もせずゲレンデも滑らず酒を飲んでNetflixを観た蔵王旅行

蔵王旅行<

バスで長い山道を越えると、猛吹雪であった。

「きみの故郷を見てみたい」という都会育ちの彼の言葉が嬉しくて、年末の旅行先を山形は蔵王に決定。東北新幹線から路線バスへと乗り継いで、出発から約4時間。やっと到着した日本有数のゲレンデは真っ白に輝いて……いや、視界が真っ白に覆われるほどの猛吹雪に襲われていたのです。

純粋都会培養の彼はもちろん、雪には慣れっこの私ですら呆然と立ち尽くす他ありません。凍えながら送迎バスに乗り込むと、宿のご主人は慣れた様子でホワイトアウトの中を爆進しつつ、申し訳なさそうにこうボヤくのです。

「いやあ、今年は雪が少なくてねえ~。物足りないでしょう?」

これで……少ない……? 物足りない……? 誰にとって……? 

ツッコミすら、ガチガチと鳴る歯の間に消えていきます。しかし到着した宿は温泉も併設された立派なロッジで、ロビーの大きな暖炉が暖かく迎えてくれました。

暖房のよく効いた和室に案内されて、私たちはやっとひと息つくことができました。窓から外を覗くと、長くて太いつららが屋根から幾本も垂れ下がっているのが見えます。相変わらず雪は吹きすさび、木々は大きくしなっています。ゲレンデの照明は所在なさげに、淡くかすんでいるようでした。

当然ながらこの天候では、スキーもスノボもできません。
樹氷観察ツアーに問い合わせると「視界が悪すぎるのでオススメしません」と正直なアナウンスが返ってきました。朴訥とした県民性を感じられて好感すら持てます。
しかし雪国、雪を前にあまりに無力。

「残念だね……」と言いかけながら彼の方を見やると、部屋のwi-fiが何度トライしても繋がらないことに苛立っていました。さすが都会育ち。聞くと、この宿はわずか1週間前にwi-fiが導入されたばかりで、それが謳い文句だったとのこと。足音も荒くフロントへ直談判に向かった彼の背中を見送って、私はひとり、深い満足感を覚えていました。

人里離れた冬山のロッジ。
宿泊客は私たちのようなカップルやスキー客が数組。
一面の吹雪とwi-fiの不通によって外界から遮断され、じきに日も暮れていくでしょう。

今にも金田〇少年かコ〇ンくんが登場して、事件が起こりそうなシチュエーションです。でも、たとえ何か事件が起こって、どんなに怖い思いをしたとしても全然平気、むしろ幸せだと私には思えました。だってもしもそんなことになったら、ふたりにとって一生忘れられない思い出になるに違いないからです。いつか彼と別れてしまっても、彼の記憶の一部に私という存在は残り続ける。最高ではありませんか。
それは悪い冗談としても、この幻妖とも陰鬱とも言える雰囲気こそが、私の生まれ育った東北という地の冬、そのものだと感じていました。

銘菓「樹氷ロマン」をお茶請けにくつろいでいると、晴れ晴れとした面持ちの彼が戻ってきました。なんと事務所内まで押し入り、手ずからwi-fiをセッティングし直してきたとのこと。さすがIT企業勤め。親切で素敵~! と惚れ直している私に向かって、彼は朗らかに宣言しました。
「よし!これでNetflixが観られるよ!!」

テクノロジーを駆使して、不便も情緒も雲散霧消させる……さすが、現代人。

夕飯の山形牛すき焼きと蔵王ワインをしこたま堪能した後は、蔵王温泉で身も心も温まります。部屋に戻って布団へとなだれ込み、浴衣姿でイチャつきながら、地酒「くどき上手」をだらしなく呑み合いました。そして満を持してwi-fiを繋ぎ、Netflixから選んだのは映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」。

監督は名匠マーティン・スコセッシ。レオナルド・ディカプリオ演じる主人公がセックス・ドラッグ・マネーに溺れていく様が見事で、1分間に約3回も「f〇〇k」という単語が口にされることでも有名。アカデミー賞にもノミネートされた名作です。

夜も更けた東北の山奥、暴風雪によって孤立したロッジの一室に、大好きな彼とふたりきり。
そこにはいつまでも、レオナルド・ディカプリオの高笑いとマーゴット・ロビーをはじめとする金髪美女たちの嬌声が響きわたっていました(しかも上映時間が3時間という長尺でした)。

山形の厳しくも風情あふれる冬を味わう、みちのく男女ふたり旅は、こうして何となくええもん食ってええ風呂に入り、ええ映画を観てええ気持ちで寝るという、都内でもできそうなフツーのデートになってしまったのでした。いつもよりちょっと特別だったのは、彼の浴衣姿と、いつになく満ち足りた寝顔を見られたこと、でしょうか。

でも、そんな何気ない日常こそが一番の幸福だって、よく言いますよね。この旅行は私にとって、今でも大切な思い出です。後日、「wi-fiが繋がらない時点で何気ない日常からは程遠かった。あんなところでよく生きてきたね」と彼に吐き棄てられたことを別にすれば。

おわりに

以上で、私の思い出話はおしまいです。今なお脳裏に鮮やかに蘇る、愛しい彼らの笑顔を思い出しながら綴りましたが、当の私はその間、2度涙を拭いました。

今回、担当編集さんより「お出かけに関するエッセイを書いてください、例えばデートの思い出とか!」と軽々しく……いえ、快活に依頼をいただき、「でも私、基本的に悲しい思い出しかないんですが、大丈夫でしょうか」と恐縮しながらお訊ねしたところ「まさにそういうのが読みたかったんです! 最高!」と失礼な……いえ、快諾をいただき、筆を執る次第となりました。

せっかくなら少しでもHappyなお話をと、“笑顔”にちなんだ2つを選びましたが、提出した原稿に返ってきた第一声が「予想を軽々と超える悲壮感www」だったのは心外です。今、3度目の涙を拭いました。

どうぞ最後までお読みくださった心優しい皆さまにおかれましては、愛する人とのすべての旅行が、最高の思い出となりますように。そしていつまでも仲睦まじく、思い出話のできる関係であり続けますように。

また、今回勝手に登場させてしまった元恋人のきみたち、お元気ですか。
私との旅行は、楽しかったですか?

画像提供/川下匠、北尾

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海坂侑  海坂侑

フリー編集者/ライター/エッセイスト。 Webコンテンツや書籍の編集に携わりながら、インタビュー、コラム、エッセイなどを執筆しています。 都内で美しい猫とのんびり暮らすアラサー独身、好きなことは洗濯。 根っからのインドア原理主義者です。

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