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入湯御宿 温泉閣のお知らせ・ブログ
鉄輪俳句筒・湯けむり散歩の25年
更新 : 2017/10/27 12:39
河野忠之さんのこと 古賀宣道
やあやあと言ひつつビール提げてくる 宣道
句は河野忠之さんを詠んだものである。句会や会合の終わるころを見計らい、掲句
の状態で部屋に入ってこられる。なんとも気さくなお人柄である。
師倉田紘文と意気投合することが多いかったというのも、お二人の共通点が、鉄輪を愛し、お酒を愛していたからであろう。
河野さんは「いやあー、わたしにゃ俳句やら文学ちゅうのはわからん。」とよく口にする。
しかし、実際はそうではない。「鉄輪愛」が河野さんを多弁にしているのでである。句集だけでなく、いろんなところで執筆なさったものを読ませていただくのだが、「分からん」どころではない。謙虚なお人柄が言わせている「分からん」なのである。
俳句や自然を愛する人には、どこか特有の瓢瓢とした感じがある。視点を変えれば、それは自然への畏敬が、世俗のことから遠ざけるのかもしれない。
河野さんのブログに、宿の中庭のことが書かれている。中庭という限られた空間の四季の推移が丁寧に描写されている。そこにこだわりの人柄をうかがうことができる。さらに植栽の記述であるが、全部で一九種類に及ぶ。なかでも父上からの影響とも思える「竹」に関する思いは強いように思える。
中庭の見える部屋で食事をしていたとき、知人が花や実の名をしきりに宿の人に訊いていたのを思い出す。緑のトンネルの小径を歩くのが好きだという河野さんの思い入れは、一見の客にすぎない知人にも伝わったようだ。
その河野さんが健康上の理由とはいえ、句集「湯けむり散歩」の仕事から勇退なさる由、その事業の偉大さを、一人の俳句愛好家として称えるばかりである。
句集を通して鉄輪の文化を発信してこられた河野さん。立派な後継者を得たいま、その志を絶やすことのないようにと祈るばかりある。
あまり長々と披露話をしていると、河野さんがにこにこ笑いながら部屋に入って来られそうである。
挨拶はそこまでなどとビール抜く
宣道