旅先でその地その時期ならではの旬の食材・料理を愉しむのは旅の大きな醍醐味。淡路島の初夏から初秋にかけての食の主役のひとつと言えば、活発に動き回り栄養を蓄えるこの時期、身が太り脂ものってひときわ美味しさを増す、本場淡路島の鱧に相違ないでしょう。
白身で淡白ながらも上品な味わい深さ―。鱧はどんな料理法にも応えてくれる食の優等生です。
● 鱧の落とし
沸騰した湯にさっとくぐらせ、すぐに氷水に浸けて引き締めることで鱧が持つ独特の旨みを存分に味わえる鱧の落とし(湯引き)。
非常に小骨が多いものの、その存在を感じさせないのは「骨切り」という熟練の技術があってこそ。一寸(約3センチ)の間に20〜25の包丁を入れ、皮は切らず身だけを切るこの技術は「骨切り10年」と言われるほど高度な職人技。そんな難しい技術を当たり前のようにこなす職人が数多くいるのも、長い年月をかけて育まれてきた鱧文化が淡路島にしっかりと根付いているから。
● 鱧すき鍋
鱧が美味しくなるのと同じ時期に収穫が始まる淡路産の玉葱と鱧を割り下で一緒に煮こむ鱧すき鍋は、淡路島で古くから受け継がれてきた郷土料理。玉葱と鱧のアラから炊き始め、玉葱の甘味と骨の旨みが充分にだし汁へ移った頃に鱧の身を鍋へ。口の中でホロリとほぐれる食感と、鱧の持つ上品でほのかな甘味が淡路産玉葱の甘みにより一層引き立てられ、何とも言えない美味しさ。
≪祇園祭とはも道中≫
淡路島から夏の京都へ。
別名「鱧祭り」と呼ばれる祇園祭と「はも道中」。
夏の京都で有名な鱧料理。まだ交通手段が発達していなかった昔は、夏の炎天下の中で京都まで生きたまま運ぶことのできる魚はほとんどありませんでした。しかし生命力の強い鱧は京都についても生きていたため、鱧料理の文化が発達していったそうです。
そんな関西の夏の味覚、鱧の本場は淡路島。今でも淡路島から祇園祭でにぎわう京都の八坂神社に淡路島の鱧を奉納する「はも道中」が行われています。平安時代をイメージした狩衣姿の一行が鱧の入った竹籠を担ぎ、「淡路島から、はも道中」と口上を述べながら八坂神社と南座の約400メートルを練り歩くはも道中は、「御食国」淡路島と京都を繋ぐ毎年恒例の食の祭事です。