宿番号:311615
東五郎の湯 高東旅館のお知らせ・ブログ
電話の向こうの口紅
更新 : 2010/12/29 0:02
当館の健康娯楽室にある公衆電話
無人の室内に呼び出し音が鳴り響いていた
偶然通り掛かり受話器を取る
「こちら光回線専用会社の....」
若い女が挨拶も無しに新規加入についてまくし立てる
独りでどれほど話すつもりなのだろう
私は黙って聞くだけだ
違和感を覚えたのか女が突然黙る
受話器を置く気配の無い電話の向こうに確かに居る女を想像する私
しゃべりすぎて乾いてしまった舌を蛇のように唇の間からチュルチュルと出しては引っ込めているのだろうか不快な雑音が耳に届く
湿り気の付いたところで再び一気呵成に仕掛ける待ちの体勢なのだろうか
機先を制し「これね..公衆電話なの..」と私
けたたましい女の笑い声が耳を劈く
分厚い唇に塗られた毒々しいルージュと開けた口から奥歯の数本が見えたような気がした
同時に受話器を置く音ガシャリ
どのような生活なのだろう
手当たり次第の電話で糧を得る生活
名前の一つ一つがサインペンで消された電話帳を側に置いた狭い部屋から契約が取れるとも思えない電話をして一日を過ごす生活
それはどんなものだろう
随分と増えたように思う
得体の知れない相手からの内容不明の連絡事項が随分と増えて
一日二十四時間のたった数分の関わりではあるが
未消化のままカスになって残る事柄が随分と増えたように思う
カスを蓄積した私はカスはカスだと思いながらもカスに満たされてしまった時
私はカスではないのだがカスが私に見られてしまいそうになるそんな未来が私は怖い.....