宿番号:311615
東五郎の湯 高東旅館のお知らせ・ブログ
床屋さんに於ける、首の転がり具合
更新 : 2012/12/12 17:08
鏡に映る自分の頭が、ハサミを入れるに連れて形を整えていく。
久しぶりの散髪だ。
ぼさぼさの頭で、毎朝鏡を見るのにも嫌気が射していたが、
こうして、ゆったりと床屋の椅子に身を沈めて眺める自分の顔も、悪くは無い。
思考停止状態が続き、いつしかウトウトし始めた。
遠く、アヴェ.マリアが聴こえてくる。
床屋のおばさんが、CDを掛けたのに違いない。
耳に心地よい。
サラ.ブライトランが、耳元で囁くように歌っている。
いつしか周りが暗くなり、まだそんな時間ではないのにと思いながらも、
サラの響きが、一層睡魔を運んでくる。
そうか、おばさんが、粋な計らいでカーテンを閉めてくれたのかもしれない。
それをきっかけに椅子が倒され、顔が、温かなタオルに優しく包まれる。
ホッとするひと時だ。
タオルの向こうに、剃刀を手にして微笑むオバサンが見えた。
その瞬間、私の首は、毛の散らかった床にごとりと鈍い音を立てて、落ちた。
コロコロと音立てて転がる首。
それを追う、胴体だけの私。
すると、椅子が起こされて、目の前の鏡が勢いよく反転し、おばさんが耳元でそっと囁く。
はい、おわりましたよ...
目を開けると、鏡の中の十歳も若返ったような自分が、微笑みながら私を見ていた。
優しい笑みで、怪訝な顔した私を見つめる自分。
そこで何をしているのですか..
いつからそこに居るのですか..
これから何処へ行くのですか..
微笑を浮かべて問いかけてくる自分。
何も言えずに、ただ見つめ返すだけの私。
床屋さんで、じわ〜〜っと押し寄せた夢物語...
首は、無事でした...
ケニーバレルの、ミッドナイト.ブルーを聴きながら.....