宿番号:311615
東五郎の湯 高東旅館のお知らせ・ブログ
なみだの牛が 運ばれて...
更新 : 2025/2/12 3:56
牛は、ことばを話さない
だけれども、その牛は涙を流し、
言葉以上に、なにかを訴えていた
牛小屋の段差に躓いて足の骨を折ったのだった
夕ご飯になっても戻らない父を探しに行ったら、
牛小屋に居た
横たわった牛の傍に胡坐をかいて、
ぶつぶつと言いながら、牛の頭を撫でていた
子供の私はそんな父を見たことが無かった
牛と同じ目をしていた父
少し涙を流していた
馬鹿と言いながら、頭を撫でて泣いていた
トラックのエンジンが聞こえて牛が運ばれて、
エンジンが聞こえなくなって、牛がいなくなった
小屋の中で、父の後ろに隠れて見ていたが、
牛はトラックに乗るとき、後ろを振り返ってモオーっと啼いて、
涙をぽとぽと落とした
青い、見たことも無いようなきれいな目をしていた
偶に、高速道路を大型輸送車で何十頭も運ばれる牛と遭う
いつ見ても、目がおんなじだ
あのときに見た、あの目をした牛が、悟りきったようにして運ばれてゆく
すれ違い、少しだけ目が潤む、大人の私