宿番号:311615
東五郎の湯 高東旅館のお知らせ・ブログ
キャリフォーニアの青い空
更新 : 2025/3/6 0:55
12
ビートルズとアニマルズで、父の首を半分振らせはしたが、残り半分の夏休みがやって来た
牛である
角がある
人間より大きい
目が充血して、いつも何かに飢えているようでもある
そして何より、人の言葉を話さない
当然コミュニケーションが取れず、何を考えているのかもわからない
このような、何が起きても不思議ではない世界に足を踏み込んだのも、“アニマルズ”の祟りではないかと、リチャード.バートンを呪った
でも、子供の頃、父が餌をやっている周りをうろついていた時の記憶が蘇って来た
牛の餌は干し草
それに、米ぬかをまぶして温泉のお湯をかける
その時の、なんとも言えない湯気に漂う乾草の香りが好きだった
冬はその中に、S字型の押し器で刻んだ大根を入れてやる
夏は、ジャガイモを細かく刻んだものを入れ、「芽には注意しろ。ガスがたまって死ぬこともある」と、父にうるさく注意されたものだ
一度、餌の桶を小屋の中に押し込もうとした時、牛が覆い被ってきたことがあり、とっさのことで難を逃れたことがある
父曰く、発情期が来ている牛は、注意しろ...ということだった
えっ..俺、男だし..人間だし...
やっぱり、アニマルズなんだよね...
当たり前だが、夏は暑い
小屋の中も暑い
その中に居る牛も大変だろうと思う
だから、一日一回、草の生えた堤防まで牛を引いて鉄の棒を地中に打ち込んで繋いでやる
幾らかは涼しいに違いなく、小屋を出る時は牛も嬉しそうな顔をしていた
その間、牛小屋を綺麗にしてやる
三本鍬で糞尿の浸み込んだ藁を堆肥小屋まで運ぶ仕事
これが大変で、数回、足を滑らせて転んだことがあり、泣くに泣けなかった
でも、この仕事が田んぼへと続き、美味しい米づくりへと繋がるのだった
牛は、主に田んぼに入れる堆肥を作る為に飼っていたのである
そんな夏の終わり、空には赤とんぼが夕日に輝き群れを成して現れるころ、
学校から帰ってみると、待望のオーディオセットが部屋に置いてあった
嬉しかった
礼を言いたいのだが、恥ずかしくて、「..どうも...」というのが精いっぱいだった
「うん」..父が全部首を振った瞬間だった
心の中は、カリフォルニアには遠いけれども、澄んだ青空で一杯だった.....