宿番号:311615
東五郎の湯 高東旅館のお知らせ・ブログ
キャリフォーニアの青い空
更新 : 2025/4/11 2:58
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マイルスは、カッコよかった
神田川から立ち上る都会の生活臭にも大分慣れたころ、私は、新宿のレコード店で買った「死刑台のエレベーター」に、毎晩のように針を落としていた
今はもうないだろう丸井の6階だったと思うが、日活名画座で見た鮮烈な印象がレコードを聴くたびに蘇り、場面場面に挿入されたミュートの効いたマイルスの音色に毎晩痺れていた
編集した画を見ながら即興で吹きまくって、終わった時にはくちびるに血が滲んでいたという
アメリカだけだと思っていたジャズが、文化の薫り高いフランス映画にこんなにもマッチするんだと妙に感心して、一歩外に出れば出会いに溢れた街.東京..スゴイ所だと思った
そんなマイルスの醸し出す雰囲気は何故か東京の夜にふさわしく、部屋の出窓に腰かけて、
川面に映る向かいの家々から漏れる明かりや、十二社の森の上を焦す繁華街の明かりを見ながら、エチュードの課題をぼんやりと考えていた
いつしかわたしは、演劇の世界に、か細い足で立っていた
言葉を読み込み咀嚼した後に、肉体を駆使して作者の意図する高みを目指し、或はそれを超えて展開される自己なる発意としての表現の世界に遊ぶ...エチュード
その時、気になっていた劇作家の一編の詩がフト頭を掠め、マイルスのペットが後押しして、
皆の前で体を動かす明日の自分が一つ一つイメージとして浮かんできたから不思議だった
こんな経験はこれまでになかった
マイルスが、想像力を引っ張り出した..そんな感じだった
“わたしは しなびる しなびたくない しなびたくないとおもっても わたしはしなびる”という出だしで、後のことは覚えてないが、“はちゅうるいのちをすすればしなびないときいたのでためしてみた”ということだけは今でも思い出すことが出来る
もう夜も遅く、課題のエチュードのイメージが消えない様に、
私はマイルスのジャケットを枕もとに置きながら眠りについたのだった.....