宿番号:311615
東五郎の湯 高東旅館のお知らせ・ブログ
キャリフォーニアの青い空
更新 : 2025/4/26 17:00
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次の朝、目覚めても、マイルスに手伝ってもらったイメージは、きちんと残っていた
それは、手伝って貰ったというよりも、一緒に作ったと云ってもいいのかもしれない
例えば、山下清さんの絵
対象を見て感じる心と形にする表現力は、先天的、後天的なものをも含めて自分自身のものだろうが、それを揺さぶり前に押しだすものは目の前の対象に他ならず、まさに対象と共に創り上げた結果ではないだろうか
そんなことを思いながら電車に乗っていると背中を突つかれて、振り返ると、同じところに通う女の子が極々至近距離にいた
「おはよう..たかはし君って、この近くなの?」..満員電車の中とは思えない大きな声だった
「.....」
突然のことで、どぎまぎしてろくに返事も出来ず、曖昧に笑みを返しただけだが、
後々、この子とマイルスを二人で聴くとは夢にも思わなかったのである..しかも、私のアパートで
可愛い子だった
皆と稽古場にいる時は、こんな子も居るんだという程度で話したこともなかったのだが、
混雑した電車の中、思わぬ近さで見ると、眼が大きく彫の深い顔立ちで、どことなく死刑台のエレベーターのジャンヌ.モローと似ていなくもなかった
私は、子供の頃から思ったことはすぐに口に出るので、「君って、誰かに似ているよね」と小声で云ってみた..こういう時は、そんな性格が何かと便利だった
「えっ、誰..」相変わらず大きな声だ
声が大きいよと言うほどの仲でもないので、小さな声を促すように「ジャンヌモロー」と、さっきより小さな声で云ってみた
「えっ..誰、それ...」幾らか小さな声で答えた彼女に、電車がガタンと揺れて顔がぶつかりそうになる
「キャッ」と、恥じらうしぐさが未だ少女のあどけなさを残し、急接近に驚いて顔を真っ赤にしている
私は私で、驚いて鼻腔一杯彼女の髪の香りを嗅いでしまったのである
朝にふさわしい良い香りだった
そうこうしているうち駅に着き、皆に押し出されて倒れそうな彼女を支えようとした時、思わず手を握っていた
この日から、いつもの時間いつもの電車を互いに約束して稽古場通いになるわけで、
上空はどんよりとした曇り空だったが、私の中に、カリフォルニアの青い空が、
少しずつ顔を出し始めたのである.....