どこかで聞いた事のある題名はさておき、ここ楓の小舎には何かが棲んでいる。

楓の小舎にまつわるこんな噂を耳にした事があるだろうか。

　楓の小舎には何かがいる。確実に”何かが”いる。足にさわりと触れて、気配はするのに目をやればいない。見えたとしてもそれは、茶色い残像を残して去っていく。そんな噂を。

　それは、雪の降る朝方、急にやってくる。

　目にもとまらぬ速さでそれを目視するのは至難の業だ。

　従業員の証言によると、それは、かなり獰猛だ。

「足にまとわりつく」

「金切り声をあげる」

　楓の小舎に何かとりついているのだろうか。

　目にもとまらぬ速さで掛けてくるそれは、一見するとただの黒か、こげ茶色。しかし、近づくと……。

　ふわりとした容姿を持ち、実に愛らしいが実態は、おてんば過ぎるそれ。

　我々は、それの捕獲に成功した。

　楓の小舎の看板娘、かえでちゃん。

　この娘、実にすばしっこい。

　楓の小舎にお越しの際は、運が良ければ、噂の“かえでちゃん”に出会えるかもしれない。