宿番号:337933
秩父 旅籠一番 〜酒と料理を愉しむ古民家旅館〜のお知らせ・ブログ
落柿の音2
更新 : 2013/3/1 15:35
声をかけると、
「おおっ小三郎殿、お役目ご苦労でした。」と堂々とした声が聞こえ
その重い杉戸を開けると、義父であり先の筆頭家老がいた。銀初で髻もしっかり締め
目の鋭さはいくらか柔和にはなったが、いまから、14,5年まえ
藩政を守るために、側用人、三上采女一派おおよそ15人先を
葬ったあの豪腕家老の面影も近頃は薄れてきた。
「いかかがした。」
「はあ、少し父上にご相談義ありまして。」と後ろに下がり
座り、懐より江戸屋敷の野上三左衛門よりの書状を出し
義父に渡した。その手紙の内容は江戸外堀新見付の橋の
補修の手伝いがほぼ秩父藩と決まりそうと、藩主と姻戚
の稲葉摂津守より内々に伝えられたことだった。
実は一昨年も西の丸の橋の補修の手伝いをなした
ばかりで、藩の蔵はもう尽きていたのが現状だった。
読み終え、目元を婿である播磨に戻すと
「うん。困ったのう。」と腕組みをする舅だった。
「そこで、お役が回避できるか、もしくはお手伝い
するとしたら、商人より工面するしかありません。」
「うん、わしが江戸に行き、大目付、老中の腹を探ってこよう。」
「そうしていただくと、心中軽くなりまする。」
「ああ、明後日にも江戸に向かう。ところで、小三郎殿を
当家の婿にするに際し、いささか無理な事、つまりお前さま
が決まっていた婿入り先を強引に止めさせたことがあったな。」
「はあ。もう済んだこと。」
「うん。まあ、その節は悪かった。それで、今日、前の蔵奉行
から聞いてきのだが、小三郎殿の後に婿に入った依田喜左衛門が
江戸で粗相をして、切腹になったらしい。」
小三郎こと播磨は先ほど義父に相談した件より聞いたことに
より驚いてしまった。元の許嫁、千世が心配になった。
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