灰原薬『応天の門』。(※現在12巻ですが、ここにあるのは10巻まで)。
今いちばん新刊を待ち遠しく思っている歴史漫画です。
怨念うずまく平安京の世界で、菅原道真と在原業平のふたりがタッグを組み、怪談じみた事件を次々と解決していく物語。
キレ者・菅原道真の手にかかれば世の中にオカルトなんてものはない!
・・・わたくしたちは歴史を学んでますから、道真公が平将門や崇徳上皇と並ぶ日本史上最大の怨霊のひとりとなることを知っています。でもそれは後の話。
教科書で名前を知っている人が次々と出てきます。藤原北家全盛の礎となった摂政・藤原良房とその養子の(のちの関白)藤原基経が重要人物なのですけど、朝廷では彼らよりも藤原良相という人(良房の弟で同じ北家)の方が大きな発言権を持っていて「おや」と思う。でもこれは事実だったんですって。マニアック。
歴史は基経が勝利を勝ち取って他をすべて蹴落としますが、物語はその前夜を描いていて混沌としている。政局は込み入っているのに、高貴な人は喧嘩などしないので(嘘)、表向きみんな仲が良くて穏やかです。菅原道真が藤原時平と政治を争うのは、基経が亡くなった後。
この基経さんがとても怖い(5巻の表紙の顔の人です。お気づきになるでしょうか? 他の巻の表紙は2人一組で描かれているのに5巻だけ基経ひとりなのを。こいつは何かある。※12巻の表紙も在原業平だけです)。
でも義父の良房は実は基経さんをそんなに信頼していない。
そういうところの書き方がとても面白くて、痛快です。基経も伴善男も悪人となる人だけどそんな悪い人でもない。
在原業平は京都一の女好きとして知られていました。若い道真とは性格が正反対なので、このふたりの組み合わせは意外だったのですが、漫画ではすごく頼りがいのある仕事熱心な好人物。
自分が周囲から女狂いだと思われていることを知っていて、その誤解を利用して事件を解決したりする。
菅公(=菅原道真公)が祟りや霊魂を一切信じていないのに対して、業平はそれらを否定したりはしない。
でも菅公から事件のからくりを科学的に説明されると、それを即座に理解してしまう常識人。
菅公も決して頭がいいばかりではなく、自分の中に弱点がいくつもあることを把握しているのに、面倒事にいつも巻き込まれてしまう。
絵はきれいだし、歴史人物たちの立ち居振る舞いが愉快すぎて愉快すぎて、この人たちの事件譚をいつまでも読んでいたい感じで、とても面白い漫画です。
古代の日本の闇に包まれた感じもじっとりと描いていると思います。
オカルト話好きの利根川