おしろい花の谷のお話☆☆☆
更新 : 2020/1/28 5:26
昔ある山村に、貧しい婆さんに育てられた美しい「かえ」という娘がおりました...
19歳の時、婆さんに先立たれ、とうとう一人になってしまいました...
かえを恋しく思っていた作三という男が、嫁になってくれぬかと、毎日かえを口説きました...
かえはお高くとまっているわけではないのですが、作三の言葉を受け入れる気は無いようでした...
作三は、眠っているかえを布団ごとさらって来ようと決心して、夜が更けるのを待ちました...
やがて東の空が白み始めた頃、かえの家の戸が開き、中から旅支度をしたかえが出てきました...
かえは、まだ暗い中をスタスタと歩き続け、やがて作三の知らない所へ向かいました...
後を付けていた作三は、少し気味悪く思いましたが、それでもかえの後を付けていきました...
やがて、巨大な岩の割れ目に入っていったかえを追って、作三も割れ目に頭を突っ込みました...
割れ目の先は、昼間のように明るく、紅と白のおしろい花が咲き乱れる広い野原がありました...
広場には、かえと全く同じ顔をした若い娘達が、舞うように動き回っていました...
すると、すごい風が吹いて花が舞い上がり、恐ろしい顔をした鬼女が出てきました...
なんと、かえの父親は風で、母親は鬼女だったのでした...
作三は、それでもいいから嫁にしたいと大きな声で叫びました...
「かえ」と叫んだ瞬間、大きな音で岩が崩れ始めると、作三は気を失ってしまいました...
ずいぶん時間がたって、気が付くと、作三は見慣れた畑のそばで、かえの膝枕で寝ていました...
かえは、「目が覚めましたか、そろそろ家に帰りましょう」と、作三に言いました...、
まるで、かえと作三はもう何年も前から夫婦だったように、肩を並べて歩きました...
うららかな良い日和、おしろい花が二人を歓迎するかのように咲いていたそうな...