宿番号:313188
日本旅館の夏仕度(なつじたく)
更新 : 2010/6/2 7:07
私が小学校にあがる前まで...
うちの家族が以前、住んでいた家は、南天苑とは少し離れていて、
旧高野街道をもう少し南、紀見峠に近く。
天見川の上流にありました。
俗に言う、主人が居つかぬ、川を背にした二階建て..というやつで、
先代である父親は始終家におらず、大きな台風が来ようと、天見川が増水しようと、
家のこと、子どものことは一切母親任せ。女将業を兼任する母親が、家のことも商売のことも、
女手ひとつで切り盛りしていたものです。
よく思い出すのは、「川を背にした...」その家の、川に向いた部分に廊下があって、
ちょうど今頃の季節になると、日本手拭いを姉さんかぶりにして着物姿に襷がけ。
川側の障子を葦戸に入れ替えていた母親の姿を思い出すのです。
作業の最後は、川を見下ろす廊下に夏用ボンボンベットを出してきて、自分がそこに座って、
「あ〜やれやれ片付いた...」で一服して作業終了。
姉さんかぶりの手拭いをとって額の汗を拭います。
その頃は、今よりもっと川にはめだかがたくさんいましたし、ホタルも今よりもっと飛んでいました。
葦戸の入れ替えを済ませた母親が、川に面した廊下に吹き通る風に身を任せて和む。
いま思えば、あれが私の幼年時代の初夏の記憶。あれが夏仕度。
さて当館、南天苑も水無月に入り、客室の障子を葦戸に入れ替え完了。
日本旅館には、夏には夏の仕度ってものがあるのです。
関連する周辺観光情報