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大正浪漫の趣き 天見温泉 南天苑のお知らせ・ブログ
南天苑・冬の鍋物語(なべものがたり)Vol.2
更新 : 2011/11/24 9:24
猪肉と魯山人の美味しいカンケイ♪
書に篆刻に、料理、芸術、陶芸に多彩な才能を発揮した北大路魯山人。
その北大路魯山人が、七十年の食道楽人生を回顧して、
「私は未だにそれを忘れない。
私が食物のうまさということを初めて自覚したのは、実にこの時であった」と、
十歳頃の、遠くとも鮮烈に残っている食べものの記憶。
その食材は、なんと「猪肉(ししにく)」だった…って、
ご存知でした?
子どもの頃、はじめて知った“食材”や“料理”の“旨さ”。
魯山人の書いた自叙伝的料理エッセイ。『料理王国(文化出版社)』の中に、そのことの記憶が詳しく述べられています。
「猪のうまさを初めてはっきり味わったのは、私が十ぐらいの時のことであった。私の家は貧乏であったから、猪の肉を買うといっても、極く僅かな買い方をしていた。まあ、五銭ぐらい持って買いに行くのが常であった。もっとも、当時は牛肉ならば鹿の子(東京でいう霜降りロースに当たる)が三銭位で買えた時代であるから、五銭出すというのは、猪の肉だけに奮発したわけなのである。
そうしたある日のことだった。いつものように店先に立ってみると、親爺が二寸角ぐらいの棒状をなした肉を取り出して来て、それを一分ぐらいの厚さに切り出した。四角い糸巻型に肉が切られてゆく。その四角のうち半分ぐらい、すなわち上部一寸ぐらいが真っ白な脂身で、実にみごとな肉であった。十ぐらいの時分であったが、見た時にこれはうまいに違いないと心が躍った。
その代わり、親爺はそれを十切れぐらいしかくれなかった。子供心にも非常に貴重なもののようにそれを抱えて、楽しみにして帰って来た。うちの者も、その肉の美しさを見て非常に喜んでいた。早速煮て食べてみると、果たせるかな、うまい。
肉の美しさを見た時の気持ちの動きも手伝ったことだろうと思うが、食道楽七十年を回顧して、後にも先にも、猪の肉をこれほどうまいと思って食ったことはない。私は未だにそれを忘れない。私が食物のうまさということを初めて自覚したのは、実にこの時であった。」
11月15日。狩猟解禁となったこの日より、猪鍋(しし鍋・ぼたん鍋)の季節ははじまります。
そして、猪肉がもっとも旨いのはこの寒い季節。
魯山人も記憶に残した猪肉の味覚。南天苑でお確かめ下さい。
グルメも通も、季節を外してしまいますと、旨いものについては語れません。