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伊豆高原 城ヶ崎温泉 花吹雪のお知らせ・ブログ
赤いうさぎの詩より 陽炎「夏」
更新 : 2012/8/26 14:17
川面の上に樹々が、しだれかかり
天城の湧き水は、音をたてて下る。
目には見えぬが、立ち込める霧に
ひやりとする。
川のせせらぎの上を
青筋あげはの群が、落ちかかり、舞い上り
飛翔する。
突然、降り注ぐ陽光。
ひりひりと、汗ばむ肌を刺す。
今日も歩く。
夏の盛りだ。蝉の音が、
ものうげに夏の終わりを予告する。
海に出て、くねる松林の中を歩く。
潮風が吹き去ぎる。ここは風の道だ。
視界の全てが揺らめき、森も海も陽炎の中だ。
断崖に打ち寄せる波のざわめきが遠い。
道を曲がった瞬間、歩いてきた女が笑った。
白い顔が
「あなたは、私ですね。」
と呟いた。
通り過ぎ、私は、ありありと彼女を思い浮かべる。
すべてが懐かしい。
体の芯から泉のように湧き出てくるこの感覚は何?
「私は、あなたですね。」
振り返ることなく呟くと、
一筋の涙が、冷めたく頬をつたった。
もう夏の終わりだ。
陽炎で揺らめく、木もれ日の中を、私は透明になるまで歩いた。