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夏目漱石 小説「二百十日」の舞台、阿蘇内牧温泉
更新 : 2012/2/22 15:08
阿蘇を愛した夏目漱石は、明治32年内牧温泉に逗留します。
阿蘇の圧倒的な存在に自然の畏敬を感じた漱石は、その時の旅をもとに明治39年小説「二百十日」を書きました。内容は圭さん碌さんという漱石たちを彷彿させる二人の主人公が、温泉街や宿での情景を語り阿蘇登山をするもので滑稽に溢れる会話文中心の小説です。
小説の冒頭は明行寺から始まります。
ぶらりと両手を垂げたまま、圭さんがどこからか帰って来る。
「どこへ行ったね」
「ちょっと、町を歩行いて来た」
「何か観るものがあるかい」
「寺が一軒あった」
「それから」
「銀杏の樹が一本、門前にあった」
「それから」
「銀杏の樹から本堂まで、一丁半ばかり、石が敷き詰めてあった。非常に細長い寺だった」
「這入って見たかい」
「やめて来た」
「銀杏の樹が門前にある非常に細長い寺」、それは先日紹介した「いまきん食堂」のすぐ近くにあるこの明行寺です。
夏目漱石が宿泊した部屋も残っています。
明治32年8月29日から5日かけ、第五高等学校(熊本大学の前身)の英語教師だった漱石は同僚の山川慎次郎と阿蘇を旅します。
その時泊まったのが(旧 養神亭)ホテル山王閣、漱石が泊まった部屋は移築復元され漱石記念館として公開されています。
漱石が訪れた当時はまだ宿が数軒あるだけだけの小さな温泉場で、小説に描かれているように田園静かな鍛冶屋の音、寺の鐘の音などきわめて日本的な音を聞き、阿蘇の里料理を肴にビール飲みながら碌さん、圭さんは世の文明批評を交わします。
姉さん、ビールもついでに持ってくるんだ。玉子とビールだ。分ったろうね」
「ビールはござりまっせん」
「ビールがない?――君ビールはないとさ。何だか日本の領地でないような気がする。情ない所だ」
「なければ、飲まなくっても、いいさ」と圭さんはまた泰然たる挨拶をする。
「ビールはござりませんばってん、恵比寿ならござります」
「ハハハハいよいよ妙になって来た。おい君ビールでない恵比寿があるって云うんだが、その恵比寿でも飲んで見るかね」
「うん、飲んでもいい。――その恵比寿はやっぱり罎に這入ってるんだろうね、姉さん」と圭さんはこの時ようやく下女に話しかけた。
「ねえ」と下女は肥後訛りの返事をする。
内牧温泉にお越しになる際、もしくはお帰りにこの本を読まれると、よりいっそう得難い旅になることでしょう。