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庭園の宿 石亭のお知らせ・ブログ
理想の泊地
更新 : 2009/5/31 9:51
瀬戸内海の島の集落や町のほとんどは海岸にある。島だけでなく瀬戸内海には海に面した町が数珠つなぎにあり、瀬戸内海に限らず日本には海岸にある村や町が多い。東北の三陸海岸にも伊豆や東海にも紀伊半島にも山陰海岸にも入り組んだ海岸地形に無数の村が昔からある。昔は海上交通が中心だったことを考えると当然の気もするが、じつは世界的には稀有なケース。今のヨーロッパやアメリカに海辺の町は多いが、海上貿易が盛んになってからの港町や商業都市がほとんどで、封建的な街は海から離れて作られることが多かった。アジアアフリカもみなそうだから、海岸にあるのは流通の港町と漁師町だけである。沖縄も農村はほとんどは海から離れた丘の上や内陸にある。
日本の封建都市である城下町は、とくに西日本の海に近いものは海際にあるものが多い。これも流通を考えてのことだろうがヨーロッパの封建都市では北欧以外では考えられない。
封建的な町の人にとって海は陸から見るもの。逆に海岸に町を作る人は海から陸を見る集団で海洋民という。日本以外で海岸に歴史的な町の多いのはヨーロッパ地中海で、商業流通に携わる人の先祖は多くが海洋民だから地中海の都市も彼らによって作られたが、日本にも古代以来、海洋民が存在したということである。
農耕の人々は日々単調な生活をしていた。たまに良い話やよいものがもたらされるときは海の向こうから来る。とくに沖縄では神様は天から降って来るものではなく必ず海の向こうから来るから、今も沖縄の人々は不浄の地で住むところではなかった海ぎわから沖に向かって祈る。沖縄の人にとって浜とはそういう場で昔は祭事の清め以外で海水に浸かることはなかった。
柳田國男は海に近い神社の鳥居は必ず海に向いていると言ったが当然と言えば当然だろう。海に向くどころか鳥居が海中にあるケースも多く、宮島の厳島神社はその典型。厳島神社の中には本殿以外に客人(マロウド)神社があり、主神より厳島神社の本質を表しているかもしれない。マロウドは沖縄ではニライカナイというが、海の向こうからやってくる神のこと。のちに胡(えびす)と混同されるようになる神である。
厳島神社の海は古代以来、船の理想の泊地だった。近世以降、船が大型化すると港は水深のある場所が選ばれたが、船の喫水が一、二メートルていどの古代は遠浅で陸に囲まれた場所のほうが理想だったらしい。続きは石亭HPへ