5階コミックコーナーの「今月いちおしの名作」その2です。
工藤かずや・原作、浦沢直樹・漫画の『パイナップルARMY』(全6巻)。
これもわたくし大学生時代に、サークルの部室で夢中に読んだ作品です。1993年頃はまだネットなんて物はなく、「世界は動乱にまみれている」のを知っているのに、テレビや雑誌で大事件の断片を又聞きの又聞きのような感じで知ることぐらいしかできなくて、世界に対して心の渇きがありました。だから、そういう世界を短編で丹念に描いているこの本を、感嘆しながら読んだのです。
舞台はおそらく1980年代半ばごろだと思います。まだ冷戦の最中でベルリンの壁は崩壊していない。東西対立、南北格差、第二次大戦からの遺恨、民族対立、国内内戦、疫病の蔓延、技術の格差、資本主義の残酷化、貧困等々から不幸せになってしまう人がたくさんいて、そういう弱い立場の人たちに“ぜったい負けないための”護身術をレクチャーする「ジェド豪士」という謎の日系人が主人公です。
ジェド豪士はむかし歴戦の傭兵だったそうで、とても強く戦い方はとても爽快なので、ある程度安心しながら読めます。人がたくさん死いいでしまいますが、物語はハートウォーミングな感じで終わることが多い。しかし戦争が終わったわけではないので、心のどこかに寒々としたものが同じぐらい残る、そんな作品です。
今も昔も紛争ばかりの世界ですけど、冷戦当時と2010年代では世界はだいぶ変わってますね。1980年代の世界の教科書みたいな作品だと思っています。
2020年代はまた紛争史の新たな段階に入ってしまうのでしょうか。
乱世には生き残れそうにない利根川