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2021.09.29

日本各地の郷土料理をご紹介!地域ごとの食文化の特徴も

地域の食文化である「郷土料理」は、地産の材料を生かし、様々な工夫をして食べられてきました。その土地の風習、歴史とも関わりが深く、中には江戸時代から作られてきた料理もあります。

和文化研究家・三浦康子さん監修のもと、郷土料理とは何か?さらに、北は北海道から南は沖縄まで、全国の郷土食をご紹介。

旅行に行った際には、各地域の郷土料理を楽しんでみて♪

※この記事は2021年8月28日時点での情報です。

記事配信:じゃらんニュース

郷土料理とは

郷土料理とは、その地域でとれる産物を使用して、その土地の風土に適した調理方法で作られ食べられてきた料理のことです。

日本は南北に長く、四方を海で囲まれた島国。山地や川も多く、「海」「山」「里」「川」がもたらす四季折々の豊かな食材に恵まれています。

(画像提供:写真AC)
(画像提供:写真AC)

郷土料理は、その風土がもたらした食材と地域の神仏や信仰、風習、気質などが結び付いて生まれた、その土地独自の食文化。正月などの年中行事や祭礼といった人々が集まる「ハレの日」や冠婚葬祭の行事食として振舞われてきた伝統食です。

(画像提供:写真AC)
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その種類は多く、子どもの誕生を祝う餅、七五三の祝い膳、長寿食、農産物の収穫を祝う料理など、長い年月をかけて各地で培われ、伝承されてきました。

それぞれの気候や地形に適した保存法や料理法で作られた、知恵と工夫がいっぱいつまった郷土料理は、美味しさはもちろん、地域の誇りとも言えます。

地域による郷土料理の特徴

郷土料理が生まれた背景には、各地域の「気候」「地形」が大きく関わっています。

気温の違いによる「食材」と「調理法」

寒い地域では農産物が収穫できない長い冬にそなえ、大根や人参などの野菜を地中に埋めて保存していたそうです。食料を絶やさないように漬物にしたり、魚などは干物にして料理に使うなど、寒冷地ならではの知恵もあります。

また、北海道や東北地方、標高の高い山地の郷土料理には、鍋物や汁物といった料理が多くみられます。寒さの厳しい時期、体が温まる郷土料理を大勢で囲んで食べて過ごしていたからです。

(画像提供:写真AC)
(画像提供:写真AC)

暑さが厳しい地域では栽培できる野菜も限られています。台風などの影響で農作物が不足することも。例えば沖縄では、まだ青いうちにパパイヤの実を獲り野菜として食べるなど、様々な工夫をして食材を手に入れてきました。

また、気温や湿度が高い地域では、食欲が落ちる夏、のどごしの良い料理や冷たくてさっぱりした料理、精力がつく料理が食べられてきました。火を使う時間を短くするために、炒めものが多いのも特徴です。

地形の違いによる「食材」と「調理法」

北海道・本州・四国・九州・沖縄、そして周辺の島々からなる日本。そして国土面積の約70%を占めるのは山地。おのずと沿岸部と山間部ではとれる食材が異なり、料理にも違いが見られます。

(画像提供:写真AC)
(画像提供:写真AC)

沿岸部では新鮮な魚介類が手に入りやすいため、刺身など生で食べる料理が豊富にあります。大量にある時は、干物などにして、日もちのする方法で長く食べる工夫をしています。

山間部では山菜や野菜、キノコや川魚を使った料理がたくさんあります。また、猪や鹿などを使った料理では、野生独特の臭みを消す工夫をして調理されてきました。

また冷蔵庫がない時代から、大量にとれた食材や海産物を発酵食品に加工することで、食料が不足する時期にも美味しく食べることができました。

まさに地産地消の郷土料理。その地域の郷土料理を知ることで、その土地の風土や歴史、風習を知ることもできます。昔の人々の日々の暮らしが見えてくる、そんな楽しさも♪

続いて地域ごとの食材の特徴と代表的な郷土料理をご紹介!その土地ならではの食材、昔から守り伝えられてきた行事食など、どの郷土料理にもエピソードがあります。守り伝え続けられてきた食文化に触れてみてください。

※農林水産省選定「農山漁村の郷土料理百選」で選ばれた郷土料理を紹介しています。
(農山漁村の郷土料理百選:農林水産省では、全国各地の郷土料理のうち、農山漁村で脈々と受け継がれ、かつ国民的に支持されうる料理を「農山漁村の郷土料理百選」として選定しました)

北海道・東北地方の郷土料理

鮭、ウニ、昆布など海産物の宝庫・北海道をはじめ、リアス式の三陸海岸などでの漁業が盛んな東北地方では、豊富な海産物を生かした料理や汁物、鍋物など温かい郷土料理がたくさんあります。

米どころ・秋田県では、美味しい米を生かした料理、反対にあまり米が収穫できなかった岩手県では、そば粉や小麦粉を使った料理などが豊富です。

石狩鍋【北海道】

(画像提供:写真AC)
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江戸時代からサケ漁で栄えた石狩地方で食べられてきた『石狩鍋』は、獲れたばかりの鮭を使った鍋料理。石狩川の河口で漁師達が網揚げを待つ間に、船上で鍋にして食べたことが始まりと言われています。

その後、見物客に振舞われるようになり、漁場が石狩川だったことから『石狩鍋』と名付けられたそうです。

ぶつ切りにした鮭、頭やヒレ、中骨、尾などの「あら」、さらに野菜を加え、味噌仕立ての昆布だしで煮込みます。白菜を使わず、甘みを出すキャベツやタマネギを入れるのが特徴。

せんべい汁【青森県】 

(画像提供:写真AC)
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『せんべい汁』は、八戸市を中心とした南部地方を代表する郷土料理。肉や魚、野菜がいっぱい入っただし汁に、小麦粉で作った「南部せんべい」を入れて食べる珍しい料理です。

醤油などで味付けしただし汁に鶏肉や好みの野菜を入れて煮こみ、1枚を3~4つに割った「南部せんべい」を入れて出来上がり。長い歴史を持つ「南部せんべい」が、お菓子としてだけでなく、様々な食べ方で愛され続けてきたことがわかる郷土料理です。

昔は料理に使うせんべいを家庭で作っていたとか。現在は、市販の鍋用せんべいを使う家庭が多いそうです。

ずんだ餅【宮城県】

(画像提供:写真AC)
(画像提供:写真AC)

「ずんだ」とは枝豆で作った緑色の餡のこと。ゆでた枝豆の甘皮を取り除き、すり鉢でつぶす程度にすって砂糖、塩で味を調えます。それをつきたての餅にからめたものが『ずんだ餅』です。

米どころの宮城県では、古くから年中行事や婚礼、葬儀、法事などで多彩な餅料理が食されてきました。その数、なんと50種類以上とか。その代表的な餅料理のひとつが『ずんだ餅』です。

見た目も鮮やか!枝豆独特の風味と香りが味わえます。現在でも多くの家庭でお盆などに食べられています。

きりたんぽ鍋【秋田県】

(画像提供:写真AC)
(画像提供:写真AC)

炊きたてのご飯をすり鉢に入れ、ねばりが出るまですりつぶし、秋田杉の角串に巻き付けて炭火でこんがり焼いたものが「たんぽ」です。

この「たんぽ」を比内地鶏やゴボウ、キノコ、ネギ、セリなどと一緒に煮込み、醤油で味付けしたものが『きりたんぽ鍋』です。

もともとは県北部のマタギ(山で狩りをする人)やきこり達が保存食として携行したのが始まりと言われています。現在でも新米の収穫後に作って、農作業の労をねぎらう風習が残っています。

関東地方の郷土料理

全国有数の野菜生産規模を誇る千葉県をはじめ、海に面し新鮮な魚介類が豊富にある神奈川県、伊豆諸島や小笠原諸島を有する東京都などでは、地元でとれる特産物を生かした料理が多くみられます。茨城県の納豆も代表的な地域の特産物です。

一方、海のない群馬県や埼玉県では小麦粉を使った料理が多く、同じく海に面していない栃木県は河川が多く川魚がたくさん獲れるので、川魚を使う料理が作られてきました。

そぼろ納豆【茨城県】

(画像提供:写真AC)
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納豆は大豆を納豆菌で発酵させた日本を代表する伝統食品。『そぼろ納豆』は、納豆の産地である水戸市周辺に伝わる珍しい漬物で、切り干し大根を細かく刻み、納豆と混ぜて醤油や塩などを入れて漬け込んだものです。

漬物にすることで、切り干し大根の辛さが取れてまろやかな味に。茨城県は大根も多く収穫されるため、各家庭で切り干し大根を作って保存食にしてきました。

夏は4~5日、冬は10日ほど冷蔵庫に入れておくと食べ頃に。納豆の柔らかさと切り干し大根の食感がたまらない逸品です。

しもつかれ【栃木県】

(画像提供:ピクスタ)
(画像提供:ピクスタ)

初午(2月最初の午の日)に無病息災を祈り、赤飯とともに稲荷神社に供えられる行事食です。「七軒の家のしもつかれを食べると病気にならない」という言い伝えも。

「鬼おろし」という調理器具でおろした大根と人参を汁ごと鍋に入れ、大豆・塩鮭の頭・油あげを加えます。酒かすを混ぜて焦がさないように煮込み、塩・醤油で味を調えて出来上がり。

材料には正月に残った塩鮭の頭、節分の豆まきで残った大豆を使います。また、鬼も寄せつけないほど鋭いと言われる「鬼おろし」を使うのも特徴。

いが饅頭【埼玉県】

(画像提供:写真AC)
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ハレの日のご馳走として北埼玉地域に伝わる『いが饅頭』は、周りを覆った赤飯が栗のいがのように見えることからこの名が付いたと言われています。集まってくれた客人に、お土産として渡したそうで、おやつとしても食べられるようになりました。

「赤飯と饅頭をまとめて作ってしまう」女性の知恵から生まれたと言う説や、子供の病気除けのために作られたと言う説もあります。

饅頭は、小麦粉にふくらし粉・砂糖・水・卵を入れて混ぜた生地で小豆餡を包み、蒸して作ります。饅頭が温かいうちに赤飯で包めば『いが饅頭』の出来上がりです。

くさや【東京都】

(画像提供:写真AC)
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伊豆諸島の特産品と言えば『くさや』。その起源は400年前の室町時代まで遡り、産業として生産が始まったのは江戸時代だそうです。

幕府に年貢塩を献上していた頃、島民にとって塩は大変貴重なものでした。魚を塩漬けして保存するために長年同じ塩水が繰り返し使われ、その塩水に魚の成分が蓄積して発酵し、独特の風味と臭みを持つ「塩汁」ができたと言われています。

その「塩汁」に青ムロアジやトビウオなどを漬け込んで、天日干ししたものが『くさや』。昔はどの家庭でも、秘伝の塩加減で作られていたそうです。

東海地方の郷土料理

名古屋コーチンや浜名湖の鰻、伊勢うどん、伊勢エビなど、全国的に有名な名物や食材がたくさんある東海地方。静岡県の駿河湾、愛知県の三河湾、三重県の伊勢湾など海の幸に恵まれ、古くから漁師料理も多く伝わっています。

海に面していない岐阜県では、アユ漁が盛んで様々な調理方法で食べられてきました。雪深い飛騨地方では、地産の野菜で漬物を作って冬に備えたそうです。

うなぎの蒲焼き【静岡県】

(画像提供:写真AC)
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明治の初期、浜名湖では、うなぎの養殖が全国に先駆けて行われるようになりました。

浜名湖の『うなぎの蒲焼』は、うなぎの骨を除いてタレをつけて焼いたもの。暑い時期には夏バテをしないようにと蒲焼にしておかずにしていたそうです。

蒲焼には2種類の調理法があります。焼く前に蒸す「関東風」は、太めのうなぎを背中から裂き、焼く前に蒸す工程が入ることで柔らかく仕上がります。焼く前に蒸さないのが「関西風」で、脂の少ない細めのうなぎを腹から裂いて焼き、香ばしい味わいにします。

味噌煮込みうどん【愛知県】

(画像提供:写真AC)
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鰹節のだし汁を効かせた豆味噌(赤味噌)仕立ての濃い汁に、小麦粉と水だけで作るコシの強い麺、鶏肉・油揚げ・卵・ネギなどの具を入れて、土鍋で煮込んだ郷土料理です。

ほかの地方にも味噌煮込みうどんは見られますが、そのほとんどは米味噌(白みそ)で、豆味噌を用いるのが愛知県の特徴です。

愛知県岡崎市は、全国的に有名な八丁味噌と呼ばれる豆味噌(赤味噌)の産地。県内には、味噌カツや豆腐田楽など、豆味噌を使用する郷土料理がたくさんあります。

栗きんとん【岐阜県】

(画像提供:写真AC)
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中津川市や恵那市などの東濃地域は昔から栗の栽培が盛んで、栗を使った様々な料理が各家庭に伝わっています。中でも『栗きんとん』は、素朴なおやつとして親しまれ、お土産品としても有名になりました。

『栗きんとん』は生栗を皮のまま茹で上げ、熱いうちに中身を取り出して裏ごしし、砂糖や塩を加えて味を調えてから、鍋に入れて弱火で気長に練り上げます。これを濡れ布巾に乗せて、栗の形に絞って出来上がり。

明治時代には和菓子屋でも作り始め、売られるようになったとか。今でも秋になると各家庭で作られています。

伊勢うどん【三重県】

(画像提供:写真AC)
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県の中東部にある「伊勢神宮」は、昔から「お伊勢さん」と呼ばれ、全国から大勢の人がお参りにやってきました。お伊勢参りに来た人達のために、伊勢神宮の周辺や街道沿いには様々な名物料理が生まれました。その中のひとつが『伊勢うどん』です。

たまり醤油に鰹節やいりこ等のだし汁を加えた黒く濃厚なつゆを絡めたうどんで、柔らかく煮た極太の麺が特徴です。薬味に刻みネギをのせます。

農民が食べていた地味噌のたまりをつけたうどんに、食べやすいようだし汁を加えたのが始まりと言われています。

甲信越・北陸地方の郷土料理

日本海に面した地域では、新鮮な魚介類を使った料理がたくさんあります。食べ方も多様で、シンプルに炭火で焼く、大量に獲れた魚を保存食に加工するなど、いろいろな方法で食べられてきました。

加賀百万石の城下町・金沢には、江戸時代から伝わる料理など歴史を感じる料理がたくさんあります。将軍への献上品として作られた富山県のます寿しは、全国的にも有名です。

米づくりに適さない山梨県や長野県では、主食に変わる穀類を作り、餅や麺に加工して食べてきました。また鳴沢菜や野沢菜など独自の野菜を栽培し、冬場も食べられるよう漬物などにしました。

のっぺい汁【新潟県】

(画像提供:写真AC)
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新潟県では、正月や祝い事・祭り・葬式・法事などに『のっぺい汁』と呼ばれる汁物料理が作られます。のっぺい汁は全国各地にみられますが、新潟県の『のっぺい汁』は具沢山なのが特徴で、汁の少ない煮物風にすることも。温かくして食べるだけでなく、冷やしてもおいしくいただけます。

『のっぺい汁』は、里芋や人参などの季節の野菜、鶏肉、こんにゃく・しいたけなどをじっくり煮込み、里芋から出る自然のとろみをつけて醤油で味付けをします。祝い事には、イクラや鮭のはらすを加えることもあります。

祝い事にはとろみをつけ、葬式や法事にはつけないなど、様々な風習があるとか。具や汁の量も地域や家庭、それぞれの味があるそうです。

ます寿司【富山県】

(画像提供:写真AC)
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『ます寿司』は、江戸時代に良質の越中米と神通川のアユで作ったのが始まりとされています。藩主・前田利興が八代将軍・徳川吉宗に献上し、食通の吉宗を唸らせたと言われています。

その後、マスを使った寿司も作られるようになり、評判を呼んで、越中名物として広く知られるようになりました。

円形の器に笹を敷き、塩漬けして味を付けたマスの切り身と酢飯を詰め、笹で包み込み重石をして作ります。現在も多くの専門店がそれぞれの伝統の味を受け継いでいます。

ほうとう【山梨県】

(画像提供:写真AC)
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『ほうとう』は県内各地で夕食によく作られてきた麺料理。小麦粉に塩と水を加えてこねて麺を作ります。うどんよりも幅広く切った平麺が特徴です。

だし汁の入った鍋にカボチャなどの旬の野菜を入れて煮立て、麺を入れて柔らかくなるまで煮込み、仕上げに味噌で味付けをします。うどんと違い、麺を打ったあと寝かさずに切って煮込むため、煮くずれしてとろみがつくのが特徴で、味がまじり合っておいしいうえ、冷めにくくなります。

カボチャがたくさん入ったものは「かぼちゃほうとう」、キノコがたくさん入ったものは「きのこほうとう」と呼ばれます。

おやき【長野県】

(画像提供:写真AC)
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長野県は米作りに適さない地域が多いため、そば粉や小麦粉を使って作る焼きもち類をご飯のかわりに食べてきました。

焼きもちの一つ『おやき』は、小麦粉をこねて作った皮で、野菜や山菜を炒めて味噌や醤油で味付けした具を包み、焼いたり蒸したりして作ります。旬に合わせて様々な具の『おやき』があり、包む皮や調理方法にも地域や家庭ごとの特徴がみられます。

持ち運びしやすいのでお弁当としても重宝。またお盆に欠かせない料理として、今でも多くの家庭で作られています。

関西地方の郷土料理

古来、日本の政治、文化、宗教などの中心として栄えてきた関西。全国から食材が集まり、郊外の豊かな自然にも恵まれたこともあり、日本を代表する食文化として発展しました。

京野菜、神戸牛、丹波の黒豆、明石のタコ、和歌山の南高梅など、名の知れた食材を使った料理がたくさんあります。

海のない奈良県では、和歌山県などから運ばれてくる海産物を使ってハレの日に食べる寿司を作ってきました。琵琶湖に住むフナを使った滋賀県の「ふなずし」は、奈良時代頃から作られてきた伝統食です。

ふなずし【滋賀県】

(画像提供:写真AC)
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『ふなずし』は奈良時代頃から琵琶湖周辺で作られてきました。琵琶湖に生息する大型のフナ「二ゴロブナ」のメス(子持ち)を使った料理です。

材料はフナとご飯だけ。数ヶ月~1年かけて塩漬けにしたフナに塩を混ぜたご飯を詰め、桶の中にそのフナとご飯を交互に敷き詰めて、再び数ヶ月漬け込みます。この製法はご飯の発酵作用により保存性を高めた「熟れずし(なれずし)」と呼ばれるもの。日本の寿司の原点と言われています。

一般的には魚だけを食べますが、地元では発酵してペースト状になったご飯ごと食べる人が多いようです。

京漬物【京都府】

(画像提供:写真AC)
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京都では、特産の京野菜の持ち味を生かした『京漬物』がたくさん作られてきました。

香りや色合いを大切に、野菜そのものの旨味を生かしたうす塩の味付けで、あっさりとした上品な味わいが魅力です。

代表的なものとして、聖護院かぶらを薄く切り、昆布・唐辛子とともに樽に漬け込んだ「千枚漬け」、上賀茂地域特産のすぐき菜を塩だけで漬けた「すぐき漬け」、大原特産の紫蘇(しそ)の葉とナスやミョウガを塩漬けにした「紫葉漬け(しばづけ)」があります。これらは「京都三大漬物」と呼ばれています。

いかなごのくぎ煮【兵庫県】

(画像提供:写真AC)
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瀬戸内海沿岸では2月末頃からイカナゴ新子漁が始まり、「新子」と言う体調3~4cmほどの幼魚が獲れます。

この「新子」を醤油・砂糖・みりん・生姜で煮詰めて佃煮にしたものが『いかなごのくぎ煮』です。出来上がった佃煮が曲がった「古釘」に似ていることから、この名前が付けられたそう。

昔はイカナゴ漁に出る時は鍋とコンロを積み、獲れたてのイカナゴを醤油で煮ながら船上で食べたとか。『いかなごのくぎ煮』は、長期保存が可能な郷土料理で、春先になると各家庭でイカナゴを炊く光景が見られます。

柿の葉寿司【奈良県】

(画像提供:写真AC)
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海に面していない奈良県では、江戸時代は紀の川を遡って海産物が運ばれてきました。

保存がきかない魚は塩でしめていたため、その塩気を和らげるため薄いそぎ切りにして一口大の飯にのせ、防腐効果の高い柿の葉を包んで押し寿司にしたのが『柿の葉寿司』の始まりだとか。たくさん作って木箱に詰めて重石を乗せると、翌日には食べごろになるそうです。

魚も米も貴重な吉野の里にとって特別な料理だった『柿の葉寿司』は、夏祭りや川開きのご馳走として振る舞われてきました。

中国・四国地方の郷土料理

水産業が盛んな鳥取県は、砂丘らっきょうの産地としても有名。同じく日本海に面した島根県は、海だけでなく湖や川で獲れる魚介類を使った料理が多くみられます。

瀬戸内海に面した地域では、春になるとタイやサワラなど、たくさんの魚がやってきます。また三方を海に囲まれた山口のフグ、全国有数の生産量を誇る広島のカキなどを贅沢に使った料理もあり、多彩です。

四国は海の幸にも山の幸にも恵まれた地域。暖流の黒潮が流れる太平洋に面した高知県を代表する魚はカツオ。土佐の一本釣りとして有名です。

出雲そば【島根県】

(画像提供:写真AC)
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島根県の「蕎麦」と言えば『出雲そば』。蕎麦の実を皮ごと石臼で挽いたそば粉で作るため、色が濃く香りの強い、こしのある食感が特徴です。

割子(円形の重箱)に冷たい蕎麦を盛り、つゆと薬味をかけて食べる「割子そば」が代表的な食べ方。「割子そば」は、江戸時代、松江の城下町では、野外で蕎麦を食べるために割子と呼ばれる重箱に蕎麦を入れて持ち運んでいたことに由来するそう。つゆを蕎麦にかけるのも、当時の食べ方を引き継いでいるからです。

「香り三分に味三分、そしてだし三分」とも言われ、だし汁にもこだわっています。

岩国寿司【山口県】

(画像提供:写真AC)
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『岩国寿司』は、山の頂にある岩国城への運搬や保存に便利な料理を作るよう岩国藩主に命じられた料理番が考案したと言われ、「殿様寿司」という別名もある料理です。

大きな木枠に、酢飯と魚の身・岩国名産の蓮根・椎茸・春菊・錦糸卵・穴子などの具を詰め、仕切りに芭蕉の葉を敷き詰めます。またその上に酢飯と具を重ねることを繰り返し、何段にも重ねて作る豪快な押し寿司です。

出来上がった寿司を一人前ずつに切り分け、大勢で分け合って食べるため、人の集まるハレの日に欠かせない伝統料理です。

そば米雑炊【徳島県】

(画像提供:ピクスタ)
(画像提供:ピクスタ)

四国山地の山あいにある祖谷地方の郷土料理。渓谷が深く、米づくりには不向きな土地だったため、「あわ」や「ひえ」、「そば」を栽培し主食としていました。

「そば米」とは、そばの実を塩ゆでして殻をとり乾燥させたもの。そばを粉にしないで実のまま食べるのは全国でも珍しいそうです。

『そば米雑炊』は、源平合戦に敗れ祖谷地方に逃げてきた平家の落人が、都を偲んで正月に作った料理が始まりと言われています。

だし汁に鶏肉・人参・大根・キノコなどを入れてよく煮込み、茹でた「そば米」を加えて醤油などで味つけをします。今では県内全域で食べられるようになり、プチプチした食感が好まれています。

かつおのたたき【高知県】

(画像提供:写真AC)
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四国の南部に位置する高知県は、太平洋の沖合を流れる暖流の黒潮により、カツオ漁が盛んです。

県魚のカツオは、年間を通して食べられていますが、ポピュラーな食べ方は『かつおのたたき』。藁を燃やした火で皮のついたままのカツオの表面をさっと炙り、冷水に入れて味をしめてから厚めに切ります。ニンニク・ショウガ・ミョウガ・シソなどの薬味をたっぷり添えて、ポン酢につけて食べるのが一般的です。

船上料理として始まった「塩たたき」がルーツと言われ、地域によって作り方や薬味が少しずつ違うとか。客人のもてなしに欠かせない土佐の味です。

九州・沖縄地方の郷土料理

古くから貿易都市だった福岡市や貿易港として栄えた長崎市などには、外国の影響を受けた料理や食材がたくさんあります。例えば辛子明太子は、もともと朝鮮半島の食べ物だったそうです。

熊本県の馬刺しは江戸時代から食べられていたとか。宮崎県の冷汁は、暑い気候によく合う冷たい郷土料理です。

台風や日照りの被害を受けてきた沖縄では、天候に左右されにくいサツマイモなどの農作物が作られてきました。また、琉球王朝の宮廷料理だったラフテーなど、独自の食文化を育み、沖縄の方言から名付けられた料理が多いのも特徴です。

水炊き【福岡県】

(画像提供:写真AC)
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『水炊き』はその名の通り、ぶつ切りにした骨付きの鶏肉から出る旨味を最大限引き出すために水から煮立てて作る、福岡を代表する鍋料理です。

中に入れる材料は、鶏肉の他、春菊・白菜などの野菜や椎茸・豆腐など。薬味は、もみじおろしやネギで、ポン酢と醤油の合わせ酢につけて食べます。残った汁は、雑炊などにして最後まで楽しみます。

福岡の郷土料理に適するよう開発された「はかた地鶏」が『水炊き』には最適だとか。長崎で食べられていた鶏肉料理が博多に伝わり、博多っ子の好みの味に変化しながら、今の『水炊き』が定着したと言われています。

具雑煮【長崎県】

(画像提供:写真AC)
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『具雑煮』は、県南東部の島原半島に伝わる具沢山の雑煮です。正月はもちろん、祭礼行事やハレの日の料理として食べられ、島原の家庭料理として定着しています。

だし汁に、鶏肉・穴子・卵焼き・唐人菜・椎茸・牛蒡・春菊・凍豆腐などを入れて煮込み、醤油で味付けして丸餅を入れます。

江戸時代の初めに起きた島原の乱で、天草四郎やキリスト教の信徒たちが城に立てこもっている時に、山や海からさまざまな材料を集めて雑煮を作り、栄養をとりながら戦ったのが始まりと言われています。

馬刺し【熊本県】

(画像提供:写真AC)
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熊本県の名物として有名なのが『馬刺し』です。昭和30年(1955年)代頃までは役目を終えた馬を加熱して食用にしていましたが、昭和40年(1965年)代頃から食用馬の飼育が本格的に始まり、『馬刺し』という食べ方が定着してきたそうです。

馬肉を薄く切って、タマネギ・すりおろした生姜・ニンニクなどを添え、地元の甘くて濃い刺身醤油をつけて食べます。トロ、霜降り、赤身、たてがみなどが人気です。

冬に充分肥やらせた馬を桜が咲く頃に味わうのが美味しいと言われることや、切り口が桜色になることから、「桜肉」とも呼ばれています。

ゴーヤーチャンプルー【沖縄県】

(画像提供:写真AC)
(画像提供:写真AC)

沖縄料理と言えば「ゴーヤーチャンプルー」を思い浮かべる人も多いのでは。“夏野菜の王様”と言われるゴーヤーにはビタミンが多く含まれています。

「チャンプルー」は沖縄の方言で「ごちゃまぜ」という意味。地元のしま豆腐や野菜、豚肉など様々な食材を炒めた料理です。

ゴーヤーは縦に割り、種のあるわたを取り除いてからスライスし、豚肉や豆腐など好みの材料と一緒に炒めます。味をつけて最後にとき卵を回し入れて完成です。

郷土料理は地域の風土や歴史の中で創意工夫され、全国の農山漁村で受け継がれてきた食文化で、地域の人々の誇りです。

自分が育った土地や両親の故郷にどんな郷土料理があるのか?身近な郷土料理でも知らなかったことがたくさんあるかもしれません。気候や地形にあった知恵と工夫を知ることで、一層その素晴らしさを知ることができるでしょう。

郷土料理には、普段の食生活にも生かせる工夫がたくさんあります。この日本の素晴らしい食文化を、絶やすことなく守っていきたいものです。

●監修/和文化研究家 三浦康子
<プロフィール>
テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、ウェブなど、様々なメディアで活躍中。行事を楽しむことが子育てに効果的であることを伝える「行事育」の提唱者。著書「子どもに伝えたい 春夏秋冬 和の行事を楽しむ絵本」(永岡書店)、監修書「おうち歳時記」(朝日新聞出版)他多数。
公式サイト

出典: 農林水産省Webサイト

【参考文献】監修/龍崎英子『郷土料理』ポプラ社、2009年

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横手 奈保子  横手 奈保子

ゴールデンレトリバーとゆったりまったり暮らしています。「犬と一緒に泊まれる宿」にチャレンジ中。愛知県在住。