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2020.03.30

「“ここではないどこか”に行き、自分の居場所としての“ここ”の美しさを見つけるのが旅の魅力」じゃらん30周年特別記念フィルム『ここではないどこかで』監督 川村元気インタビュー

2020年に入り、私たちじゃらんは30周年を迎えました! 旅のかたちは変わっていっても、長く愛されるメディアとしてご利用いただいていること、嬉しく思います。

節目を迎えた記念として、『天気の子』『君の名は。』『告白』『モテキ』などの映画プロデューサーとして知られ、『世界から猫が消えたなら』『億男』『四月になれば彼女は』『百花』など小説家としても活躍されている川村元気さんに、特別記念フィルム『ここではないどこかで』を制作していただきました!

成田凌さん、森七菜さん、板谷由夏さん、犬山ヴィーノさんと豪華な役者陣に加え、主題歌はBUMP OF CHIKCENが担当。北海道と東京でロケが行われた今作は、感動的なストーリーとともに、旅の魅力を改めて私たちに教えてくれています。

プライベートではバックパッカーでもあり、仕事でも頻繁に海外に渡航している川村さん。「旅好きな自分でも気付かなかった旅の持つ魅力を描くべきだと思った」と話した今作について、どんな想いや工夫を込めたのでしょうか。ご本人にインタビューしました。

(物語のネタバレを含むので、動画を見てから読み始めることをお薦めします!)
https://youtu.be/6HrIxZ0uy-4
 
 

じゃらんの旅先ランキングは、東京が1位。価値観が変わった瞬間

川村元気

――今回の30周年記念フィルムの制作にあたり、「旅」について改めて考えたことを教えてください。

じゃらんの30周年記念作品ということで「旅に出たくなるような作品」という前提をいただいたのですが、そこでまずは、じゃらんを使っている方たちの気持ちが知りたいと思い「じゃらんnetのユーザーが予約している旅先のランキング ※」を教えてほしいとお願いしました。

僕は京都や沖縄が一位かなと予想していたんですけど、ランキング結果を見ると、一位が東京、三位が北海道だったんです。その結果が僕にとっては意外で、価値観がガラッとひっくり返る感覚がありました。「自分の住んでいる街が、誰かにとっての旅先である」という主客の入れ替えが起こることもまた、旅の一つの要素だと思ったんです。

加えて、じゃらんにとっての「お客さん」は、旅行者だけでなく、宿泊先となる宿の方たちも含まれているという事実もまた、僕にとっては新鮮でした。旅は一見、ゲスト側が主人公に見えるのですが、ホスト側も登場人物として欠かせない。僕はこれまでゲスト側しか体験してこなかったけれど、ホスト側のアングルも存在するのだと気づきました。こうした発見をもとに、旅が持っている立体的な要素、多角性を物語にできないかと考えていきました。

名作から続く「旅先で出会う二人」というフォーマットに挑む

川村元気

――今作は「東京」と「北海道」を舞台にそれぞれ異なる物語として展開していきますが、二つの離れた場所での出来事が徐々につながっていく流れが印象的でした。

エンタテインメントとして楽しんでもらいたいので、オチにきちんと驚きがあるようにしたかったこともあるし、元から『バベル』や『クラッシュ』といった群像劇形式の作品が好きだったことも影響しています。

旅がテーマで「東京」と「北海道」という離れた場所を描くなら、一見無関係に思えた二つの出来事が一つに重なっていく物語がおもしろいんじゃないかと思い、このストーリーが浮かびました。

東京の出会いシーン
北海道の旅はじまりシーン

――場所だけでなく、「若い男女」や「親子」という要素も、重要なポイントになっていると思いました。登場人物の設定はどのように決めましたか?

“見知らぬ男女が街で出会って、恋や旅をする”という構成は、『ローマの休日』をはじめ、名作と呼ばれる映画でずっと語り継がれてきた美しいフォーマットです。それを今作で踏襲したかったことがあります。

北海道という舞台も、僕が『北の国から』が大好きで、過去には富良野まで聖地巡礼をしたことがあるくらいでしたから、思い入れがありました。そこに登場する親世代の物語については、「大人の一人旅」を描いてみたいと思ったのです。

映画業界にいても思いますが、「シニア世代」と呼ばれている方たちがとにかく元気で、若いんですよ。子供が育って巣立った後に、初めて一人旅に出かける人も増えてくると思うんです。そのドラマを見せたいと思いました。

ありとあらゆる「移動」が含まれたファーストカットに込めたメッセージ

川村元気

――これまで川村さんが関わった作品にも、多くの場面で「東京」が登場していますが、「東京も、旅先の一つである」という新たな気付きが加わったことで、街の写し方に変化はありましたか?

まさに『君の名は。』は、「田舎町に住む女の子が、男の子の体に入って東京を見る」という特殊な視点で東京を写した作品ですけど、そのときに新海誠監督と話していたのは、「東京に住む僕らからすれば見慣れた景色も、旅人からしたらフォトジェニックだったりするよね」というものでした。もしかしたら当時から「旅先としての東京」という感覚はあったのかもしれません。

今作においては“東京に住んでいる人たちの見慣れた景色”としてスクランブル交差点をファーストカットにする案があったのですが、渋谷周辺を何箇所か回っていくうちに、それにも違和感が出てきたんです。撮影候補地を見ていく中で、今作のファーストカットとなった「渋谷警察署前の歩道橋」に辿り着きました。

渋谷警察署前の歩道橋に立つと、上には首都高速道路が走っていて、下には一般道が走っています。その下には地下鉄も走っているし、山手線が街を取り囲むように走っている。さらに高速道路のはるか上空では、飛行機も飛んでいる。つまりこの場所には、ありとあらゆる「移動」が集まっているんですよね。それに気付いたときに、ああ、ここに「旅」があるな、と思って、ファーストカットの場所に決定しました。

それと、今回は「移動」や「旅」と密接に関係する「道」をテーマに撮影をしています。そのため、多くの背景に道や階段が写り込んでいるんですね。作中で主人公たちが「東京タワーから東京タワーは見えない」という会話をするんですけど、東京タワーの展望台から360度いろんな景色が見える中で、あえて道路が複雑に交差しているところを、背景に選んだりもしています。対照的に、北海道では、積雪によって道が全く見えなくなっている。二つの場所が、全く異なる見え方をするようにも意識しました。

2人が東京タワーを見ているシーン

――撮影してみて、印象的だったシーンはありますか?

成田凌、森七菜が都バスに乗って移動するシーンは、印象的でした。脚本上は、バスの中で森七菜さん演じる「雪」が泣くことになっていたんです。でも、いざ実際にカメラを構えてみると、「泣く」とはまたちょっと違う複雑な感情があることがわかりました。

そしたら森さんが、本番になってカメラが回ると、「泣く」っていう解釈よりもっと上の表情をしたんです。カメラマンもそれにしっかり反応していて、走行中のバスの中で、その場の空気で生じた芝居を撮りつつ東京タワーまで映すという難易度の高い撮影をこなしてくれました。

バスから東京タワーが見えるシーン

そのほかにも、北海道では雪原のどまんなかで太陽を出るのを待って、スタッフキャスト数十人で雲を見ながら何時間も「天気待ち」をしたり。なんともいえない贅沢な時間でしたし、結果として絵画のような美しい天空が現れて、奇跡的なシーンとなりました。一発勝負だった森七菜の芝居に加えて、空もいい芝居をしてくれた、という印象です。

俳優が脚本を超えたお芝居をして、カメラマンも芝居や天気に反応し、コンテとは違う絵が撮れた結果、素晴らしいものが生まれた。映画づくりの面白さが一番詰まっていた瞬間でした。映画も小説も、予定調和から外れたところがおもしろくなるし、いい俳優といいスタッフがいると、そういうことがよく起こりますね。

旅の醍醐味は“ここではないどこか”に行き、自分の居場所としての“ここ”の美しさを見つけること

ポスター

――タイトルやポスター、ロゴデザインも印象的でした。どのような意図を込めたのでしょうか。

僕は映画を作るときに、いつも「色」を意識しています。『君の名は。』だったらブルーですし、今作でいえば、じゃらんの象徴とも言えるオレンジです。「雪」が着けているマフラーは、じゃらんカラーを意識したセレクトですし、画面のあちこちにオレンジが配置されています。
タイトルについては、僕が「ここではないどこか“へ”」という言葉に、違和感があったことから始まっています(笑)。「ここではないどこかへ」には、「今自分がいる場所は、本来の居場所ではない」という否定的なイメージを含んでいる気がしたんです。

僕がやりたいと思ったのは、「ここではないどこか」に行った先「で」、何が起こるかを見せること。だからタイトルロゴにも、「で」の前に「SOMEWHERE NOT HERE」という英語タイトルが入っていたりします。

川村元気

僕は旅が好きでよく旅にいくのですが、家に帰ってきたとき、「実家の味噌汁がいかにうまいか」ってことに毎回気付かされるんですよね(笑)。旅の醍醐味は、“ここではないどこか”に行き、自分の居場所としての“ここ”の美しさを見つけることだと、旅人としては捉えているんです。

このフィルムを見た人たちが、「あ、どこかに行きたい人の話かと思ったら、旅先だけでなく自分のいる場所の美しさに気付く話なんだ」と感じてもらえたら嬉しいですし、そう考えれば旅がもっと普遍的なものになり得ると思うんです。

旅に30年間向き合ってきたじゃらんのフィルムならば、表面的な旅の魅力よりも、もう少し踏み込んだ考え方で物語を作った方がいいんじゃないかとも思って、この作品を作りました。

おわりに

川村元気

川村さんにこの30周年記念フィルムを見る人たちへのメッセージを尋ねると、「旅の魅力を再発見してほしいと思っています。年齢や経験を重ねてくると、旅だってルーティンになってくるかもしれません。でも旅の本来の目的は、発見とか驚きにあるはずです。僕が今回この作品を作るにあたって感じた驚きを、そのまま体験してもらえたら嬉しいです」と話してくれました。

旅の醍醐味は“ここではないどこか”に行き、自分の居場所としての“ここ”の美しさを見つけること」。川村さんの旅への想いを込めて制作した、じゃらん30周年記念フィルム『ここではないどこかで』。ぜひご覧ください!

https://youtu.be/6HrIxZ0uy-4

構成・取材・文/カツセマサヒコ 撮影/なかむらしんたろう

※参考データ:じゃらんnet_2019年の年末年始の旅行先人気ランキング
https://www.jalan.net/news/article/414891/

じゃらん編集部  じゃらん編集部

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