日本が世界に誇る伝統工芸・和紙。
今回は、現役和紙職人・谷野裕子さんに聞いた”和紙の魅力”をご紹介します。
また美濃和紙や越前和紙など、日本各地の和紙の原料・作り方、テクスチャや特徴などの情報も。
(老舗和紙専門店・小津和紙監修)
現在の和紙の意外な使われ方、日常に取り入れたい素敵な商品も参考にしてみてください。美しい見た目や心地良い手触りだけでなく、耐久性・保存性に優れた和紙の奥深さを発掘しましょう。
現役和紙職人に聞く「和紙の魅力」とは?

インタビューを受けてくださったのは、ユネスコ無形文化遺産に指定されている「細川紙」の職人である谷野裕子さん。
谷野さんの和紙に対する熱い想いや魅力、手間の掛かる作り方や原料、昔の使われ方と現代の意外な使われ方などを語っていただきました。
「大切なことは和紙で残す」

「記録メディアはどんどん変わる。フロッピーディスクなんて10年も使わなかったでしょ?でも和紙は100年前のものが残っている、すごい記録媒体なの。」
と、和紙の魅力について語ってくださいました。
「だから大切なことは和紙に。」
この言葉がとても印象的で、考えさせられました。
また、あまり馴染みがなく高貴なイメージのある和紙ですが、
「ハードルをもっと低くして、広めたい。丁寧に扱えば長く使用できる。」
という熱い想いが谷野さんにはありました。
自然素材で土にかえりやすく口に入っても安心だから、現代のエコブームにも合っているとのこと。
スプーンなどプラスチックの代用品はすでに制作していて、水に強いから傘やカッパにもできるんだとか。
見た目の美しさや心地良い手触りだけでなくさまざまな魅力を持つ和紙は、まだまだ無限の可能性を秘めていそうです。
1300年の歴史を持つ和紙
そもそもこの魅力的な和紙は、いつ頃日本にやってきたのでしょうか。
中国から和紙が伝わってきたのは、1300年くらい前。
それより前、中国や日本では木に文字を書いていたそうで
「ボコボコしていて書きづらかったんじゃないかな?かさばったと思う。」と、谷野さん。
日本に和紙が渡ってきてからは技術が発達し、さまざまな和紙ができるようになったのだとか。特にお寺ではお坊さんが写経などで文字を書くことが多かったため、重宝されました。
和紙の作り方・種類・質感、意外な使われ方とは?
和紙の原料は、主に楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)の三種類。
一般的には、楮が使われることが多いそう。

谷野さんに、楮(こうぞ)を見せていただきました。
【楮を蒸す→柔らかくなった皮をつるっと剥く→皮をアルカリで煮てさらに柔らかくする→叩く】
この工程を経てやっと和紙ができるとのことで、手間が掛かっていることが分かります!
楮はどこにでも生えていますが、産地によっても若干の違いが見られ、質感にも差が生まれるのだそう。
関東の楮で作られたものは硬い仕上がりになるなど、それが各地の和紙の良さとなって表れるのもいいところです。
日本は木が多いため、和室が多かった頃は障子や襖に使われることが多かったそう。
また、時代劇などで出てくるような大福帳という帳簿にも、和紙が使われていたのだとか。

谷野さんが保管していた昭和12年の大福帳も見せていただきました。
画面越しでしたが紙はしっかりとしていてキレイで、とても80年以上前のものには見えません。
15cm程と分厚かったので「重いですか?」と聞くと、とっても軽い!とのこと。
「今でも問題なく使える」というのも驚きです。
現在では、おしゃれなインテリアや内装、ランプシェードなどに使われることも。


照明技術等:株式会社ワイ・エス・エム(画像提供:手漉き和紙たにの)
布や木でできるものは基本的に何でもできるとのことで、デパートのパッケージ、和菓子屋の風呂敷、御朱印帳なども制作されたそう。
和紙の良さが出たウエディングドレスも素敵です。

谷野さんは洗えるマスクの制作も手掛けたそうで、ここまでくると和紙のイメージが覆ります。
長く使うほど強くなる和紙
「出来たてホヤホヤの和紙は元に戻りたがる。だから崩れやすい。
でも年数が経った和紙は水分がなくなって締まっていくから、パリッとしてくる。
簡単にはほどけないし、水に入れても崩れない。」と、力強く語る谷野さん。
普段使っている普通のメモ用紙などとは反対の印象で、またしても驚きです。
「自然素材だから作るのに手間は掛かるけど、出来上がったら100年200年と使えるものになる」
これこそが、和紙の魅力。
未来に受け継いでいくべき伝統工芸だと言えるでしょう。
【谷野裕子】
手漉き和紙職人。
細川紙(2014年11月ユネスコ無形文化遺産記載登録)の正会員として工房「手漉き和紙 たにの」を運営するほか、学校・博物館・美術館等での和紙作りの指導や講演、他産地や海外での技術指導を行う。
書写素材としての和紙はもとより、ホテル、住宅、店舗の内装も手掛ける。
「手漉き和紙たにの」の詳細はこちら
ユネスコ無形文化遺産3つの和紙について

ここからは、老舗和紙専門店・小津和紙監修のもと、全国各地の和紙の特徴や質感、用途についてご紹介します。
まずは、”ユネスコ無形文化遺産”に指定された島根の石州半紙(せきしゅうばんし)、岐阜の本美濃紙(ほんみのし)、埼玉の細川紙(ほそかわし)。
三紙とも原料は楮のみ使用、薬品による漂白はしないなど、国が指定するそれぞれの和紙の用件を満たして作られています。
また、手漉(てすき)和紙の技術を次の世代へ継承できる”保持団体”がある事も、この三紙が指定された理由の一つ。
薬品による漂白を行わないため、最初は楮(こうぞ)本来の生成り色ですが、使用するにつれ日光の紫外線により徐々に白くなっていくのが特徴的です。
石州半紙(せきしゅうばんし)【島根】
強靭な性質を持つ、微細で光沢のある和紙

地場産の楮で作られた、微細で光沢のある紙質が特徴的。
楮の甘皮を残し白皮とともに漉かれているため、強靭な性質も併せ持っています。
江戸時代は帳簿用紙として使われていましたが、現在では書画用紙として主に使われています。
石州和紙会館で紙漉き体験を楽しむことも♪

本美濃紙(ほんみのし)【岐阜】
高級障子紙として昔から愛されている上品な和紙

職人さんが、伝統を守りながら新たな魅力を引き出している美濃和紙。
デザイン性の高い和紙や商品、お茶席で使う懐紙から、美術館・博物館などで使用される修復用紙まで、触れられる機会はさまざまです。

そんな美濃和紙の中でも、決まった材料、決まった道具を使って認められた一部の職人が漉いた和紙のみを本美濃紙と呼びます。
茨城県西北部で栽培された那須楮を使用した、白くしなやかで上品な紙質が特徴的。
元々高級障子紙として重用されていた和紙で、現在でも障子に使われています。
太陽の光に透かしてみると優雅な地合い(じあい:繊維の分散状態)を見ることができますよ。
美濃和紙の里会館で紙漉き体験を楽しむのもおすすめ♪
細川紙(ほそかわし)【埼玉】
地合いが締まった、おおらか・剛直で丈夫な紙質

楮の白皮のみを使用することで地合いが締まった、おおらか・剛直で丈夫な紙質になります。
江戸時代では大福帳という帳簿に、現代では版画用紙などによく使われています。
和紙の里や小川町和紙体験学習センター、埼玉伝統工芸会館では、紙漉き体験ができます♪
その他全国の和紙紹介
その他にも日本には、素晴らしい技術を守り作られている和紙がたくさんあります。
特徴や質感はさまざまで、意外なところに使われていることも♪
西ノ内紙【茨城】
繊維が細かく、ハリとコシに加え丈夫さも兼ね備えた和紙

繊維が細かく、ハリとコシに加え丈夫さも兼ね備えた、地場産の那須楮を原料にした楮紙。
一枚の和紙を細く切ってよりをかけた糸から織る紙布(しふ)用の紙としても高い評判を得ています。
インテリア雑貨や普段着などの商品も要チェックです。
小川和紙【埼玉】
素朴で温かみのある風合いに触れて癒されて

元々大福帳や商人が使う実用紙を中心に製造されていた和紙。
現在では、素朴で温かみのある風合いを守りながら、美術紙や紙細工用染紙、もみ紙、板締染紙・ガラス繊維を漉き込んだ紙など、新たな和紙と和紙製品の開発にも力を入れています。

小国和紙【新潟】
優しく素朴で温かな風合いが好評。日本酒のラベルで出会えるかも
雪国・新潟の豪雪を耐え、清い雪解け水で育った小国産の楮を使用しています。
江戸時代以前の技法を守り良質の和紙を制作していて、優しく素朴で温かな風合いが好評。
日本酒に貼るラベルにも使われています。
内山紙【長野】
丈夫で変色しにくいから障子にピッタリ!

主に障子用の紙を生産しています。
自然で柔らかな白さが特徴の内山障子紙は丈夫で変色しにくく、高い評価を得ています。
襖の桟(さん)の幅は場所によって大きさが違うため、縦1枚で貼れる1枚貼襖紙が好評だそう。
越中和紙【富山】
丈夫で耐久性があるから、暮らしの中で身近に使える製品に

和紙職人の吉田桂介氏が中心となって生み出された、懐かしく温かい型染紙。
軽く、厚手で丈夫な上、紙とはいえ耐久性もあるため、ブックカバーや名刺入れ、印鑑ケースなど暮らしの中で身近に使うことができる和紙製品が作られています。
越前和紙【福井】
平安時代から受け継がれる技法でできた美しい和紙

大きな和紙(1800×970mmなど)も製造しているため、日本画の大作や襖紙、内装用和紙、大判印刷用紙が評判です。
多様な技法が受け継がれていて、その歴史は平安時代までさかのぼるものも。
美しい美術工芸紙を制作しています。
近江和紙【滋賀】
なめらかなで透明度が高く上品なところが今も愛される理由

なめらかな紙肌と光沢感、透明度が高く上品なのが魅力的。
古くから愛されてきた和紙です。
文化財の保存修復紙に使われる他、仮名を書く料紙や線香花火などにも使用されています。
名塩和紙【兵庫】
土の粉と混ぜて、虫害を防ぎ熱にも強い間似合紙に

名塩特産の土粉を混ぜた間似合紙(まにあいがみ)としてよく知られています。
土の粉を混ぜることで虫害を防ぎ、熱にも強い紙となるのが特徴的。
その特性により、金箔や銀箔をのばす時に使用する箔打原紙にも使われています。
因州和紙【鳥取】
書道用紙から染紙、民芸紙、手工芸用紙まで多種多様

三椏に稲わらや竹などを混ぜた、ほど良いにじみの出る書道用紙、画仙紙がよく知られています。
最近では、ちぎり絵や押し花作品の背景に使うバック紙、優しい美しさのある染紙、民芸紙、手工芸用紙なども製造しています。
出雲和紙【島根】
染料で染めると光沢のある民芸紙に

故人間国宝・安部榮四郎氏が確立し、大きく発展させた雁皮紙、民芸紙がよく知られています。
三椏を原料とした民芸紙は楮紙と雁皮紙の中間のなめらかさで、染料で染めると光沢のある紙となります。

阿波和紙【徳島】
海外でも評判!阿波特産の藍で染めた風格のある藍染め紙

インテリアや小物にも使われる、阿波特産の藍で染めた風格のある藍染め紙の他、インクジェットプリンターで使用できる和紙、多様で品のある染紙が製作されています。
海外でも評判が良く、欧米各国では阿波和紙のさまざまな製品が取り扱われています。
大洲和紙【愛媛】
金箔技法ギルディングと融合させた新しい和紙も

書道用紙や障子紙、色和紙、ちぎり絵用などに使われる大洲和紙。
ふかふかとやわらかい紙質で独特の触り心地を持つ、大洲凸凹紙なんてのも。
手漉き和紙とフランスの金箔技法ギルディングを融合させたギルディング和紙やアクセサリーなど、新しい和紙と和紙製品の製作も行われています。

土佐和紙【高知】
インテリアや内装にも使われる世界で一番薄い和紙

楮、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)など、さまざまな原料を使用した和紙。
世界で一番薄い和紙として知られ、典具帖紙(てんぐじょうし)や染紙、漉き模様の美術工芸紙など、多様な和紙を制作しています。
インテリアや内装に使用されるデザイン性の高い和紙や、美術作品を作っている職人さんも♪

名尾和紙【佐賀】
薄手で丈夫だから、ライトなどインテリアにも
名尾地区に自生する梶の木(かじのき)を使用した和紙。
梶は楮に比べて繊維が長く繊維同士が絡み合うため、薄手でも丈夫です。
透かし入り和紙はライトなどインテリア用として日常に取り入れることも可能。
【監修/小津和紙】
1653年に創業した和紙の専門店。
和紙の魅力と日本の伝統を伝える文化拠点として、創業の地である東京・日本橋に店を構え、全国の和紙を取り扱う店舗の他、史料館、ギャラリー、文化教室、手漉き和紙体験工房を併設している。
先人達の精神を引き継ぎながら、和紙と人との関わりやその可能性を探り、提案中。
「小津和紙」の詳細はこちら
※この記事は2020年8月時点での情報です。休業日や営業時間など掲載情報は変更の可能性がありますので、事前に公式ホームページなどで最新の情報をご確認ください。
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トリクルマガジン編集部
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