夏の風物詩、蛍。日本を代表する2大蛍、ゲンジボタルとヘイケボタルについて、どんな生態なのか、発光する理由とメカニズム、生息環境などの特徴を、長崎大学の大庭伸也准教授に解説していただきました。
幻想的な風景を観賞できる全国のおすすめスポットや見頃も紹介しているので、記事を参考に、この夏はぜひ蛍観賞に出かけてみてくださいね。
蛍ってどんな生き物?

蛍は、カブトムシやクワガタムシと同じ甲虫に分類されます。日本には約50種の蛍が生息していますが、多くは陸生で、水生はゲンジボタル、ヘイケボタル、クメジマボタルの3種のみ。日本で蛍といえば、一般的にはゲンジボタルかヘイケボタルを指します。この2種は里山的環境が生息地のため、日本人のふるさとのイメージと関連付けて昔から親しまれてきました。
ゲンジボタルは体長12mm~15mmなのに対しヘイケボタルは7mm~10mmと一回り小さく、胸部の黒い模様がゲンジボタルは「+」、ヘイケボタルは「-」になっているのが特徴。ゲンジボタルは水が流れる小川などの流水域に生息し、ヘイケボタルは水の流れのない水田やため池といった止水域に生息しています。どちらも幼虫の頃は肉食で、ゲンジボタルはカワニナ、ヘイケボタルはモノアラガイなどの巻貝を捕食し、その後さなぎから羽化して成虫になると水だけを飲んで過ごします。
ゲンジボタルもヘイケボタルも、体はメスのほうが大きく、発光器官はオスのほうが大きいことが見た目の特徴です。また、オスは飛びながら発光し、メスは川辺の草の上などに止まって発光するという違いもあるのだとか。ゲンジボタルのほうがヘイケボタルよりも体が大きい分、光が明るく強く見えます。
名前は“源氏”と“平家”に由来するという説もあるようですが、詳しくは明らかになっていないそうです。
■ゲンジボタル

■ヘイケボタル

蛍ってなぜ光るの?

蛍は光の点滅によって個体間でコミュニケーションをとり、オスとメスが出会うと交尾をします。
発光は、腹部末端(おしりの部分)にある発光器の中で起こる生化学的な酸化反応によるもの。発光器の中にはルシフェリンという物質とルシフェラーゼという酵素が含まれており、ルシフェリンにルシフェラーゼが加わると酸化反応が進み、黄緑色の光を放ちます。
蛍は成虫になる前の、卵、幼虫、さなぎの時から発光できます。成虫よりは弱くぼんやりした光ですが、卵の時から光っています。
地域によって光る長さが違う?

同種のゲンジボタルでも地域によって光り方、明滅速度のパターンが異なります。東日本では4秒に1回点滅する4秒周期、静岡や山梨、西日本では2秒に1回点滅する2秒周期、その中間付近の長野あたりでは3秒に1回点滅する3秒周期が知られています。
さらに2020年には、1秒に1回点滅する1秒周期のゲンジボタルが長崎県の五島列島に生息することが、長崎大学教育学部の研究グループによって発表されました。
これらの明滅パターンに加えて、遺伝子も地域ごとに違います。なぜこのような発光周期の差が生じたかはまだ解明されておらず、神秘のベールに包まれています。
蛍が見られるのはいつ?

蛍の見頃は地域や種類によって異なりますが、4月中旬~8月初旬にかけて日本の様々な地域で観賞できます。
沖縄県の久米島では4月中旬~5月上旬にクメジマボタル、北海道では7月初旬~8月初旬にヘイケボタルの観察が可能。本州・四国・九州では5月~6月にかけてゲンジボタル、6月~8月にヘイケボタルが各地で見られます。
1日の時間帯では、日没から約2時間が成虫した蛍の活動ピークなのだそう。日が暮れて1時間後くらいに個体数も増えるので、観察しやすくなりますよ。
蛍の観賞マナー

蛍はとても繊細な生き物です。驚かさないよう静かに観賞しましょう。
特に明るい場所が苦手なので、懐中電灯やカメラのフラッシュ、スマートフォンの画面の光で蛍を直接照らさないよう注意が必要です。車で行く場合は、蛍の発生地内でライトをつけたまま走ったり、ハザードランプを点灯したりすることは避け、離れた場所に車を停めて現地へ歩いて行くようにしてくださいね。
蛍の採集は厳禁。触ったり捕まえたりすることは避け、観察のみにしましょう。虫よけスプレーなどは蛍が飛んでいるところでは使用せずに、事前にスプレーしておくといいですね。
また、生息地の里山的環境は人家が近い場合が多く、大声で騒ぐことは近所迷惑となります。静かに観賞し、ゴミも必ず持ち帰りましょう。
蛍は希少な昆虫となっているので、蛍の発生地として天然記念物指定を受けている場所があります。それ以外の場所でも、生息地の環境を守る取り組みが各地で行われています。観賞する場合は必ず下調べをして現地のルールに従い、蛍が生息できる環境を保つことを心がけてくださいね。
ここからは、蛍に会える観賞スポットを紹介します。
蛍のおすすめ観賞スポット
ほたるの里【北海道】
広い園内を散策しながら、里に飛び交う蛍を観賞できる

[見頃]7月上旬~8月上旬
北海道・沼田町、幌新(ほろしん)地区北部に広がる「ほたるの里」は、シーズンになると数千匹のヘイケボタルが飛び交う観賞スポットです。7月中旬~下旬がピークで、特に20時~22時が見頃です。
自然豊かな約8haの敷地に設けられた人工水路や「ほたる観賞ドーム」などの施設からはじまった飼育。今では「ほたるの里」全体に生息範囲を広げ、区域内にある「ほろしん温泉ほたる館」の露天風呂の眼下に広がる幌新太刀別川(ほろにたちべつがわ)でも生息が確認されています。
沼田町では「ほたる保護条例」を制定して、施設で蛍保護に努めているので捕獲は厳禁。時々肩など体に蛍が留まる場合がありますが、そっと捕まえて草むらに逃がしてください。
北海道雨竜郡沼田町字幌新377
散策自由
なし※施設により異なる
無料
石狩沼田駅より町営バスで20分/道央自動車道沼田ICより13分
あり(無料)
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産ヶ沢川のホタル【福島県】
穏やかな川の流れと蛍の光が作り出す、幻想的な空間

[見頃]6月中旬~7月上旬
福島県・桑折町(こおりまち)の清流、「産ヶ沢川(うぶがさわかわ)」。川沿いに位置する「産ヶ沢川ホタル自然公園」やその上流のほとりが、蛍観賞スポットです。街灯がない山間にあるので、暗闇に浮かぶ蛍をじっくりと見られます。
7月上旬まで観賞できますが、見頃のピークは6月下旬。ゲンジボタルが清流に沿って華やかに舞います。
地元のホタル保存会が、長年にわたって環境整備や蛍育成に尽力しています。
月夜野ホタルの里【群馬県】
池や棚田が広がる自然豊かな里山で、蛍が飛び交う

[見頃]6月中旬~7月中旬
蛍の自然発生数としては関東トップクラスを誇る、群馬県・みなかみ町の「月夜野ホタルの里」。6月中旬~7月中旬まで蛍が見られ、見頃は20時~21時。多い時は最大約700匹が光を放ちます。
生息している蛍はゲンジボタル、ヘイケボタル、クロマドボタルの3種。ゲンジボタルとヘイケボタルの2種の同時乱舞が観賞できるスポットです。
1周約2km、40分~60分の観賞コース「月夜野遊歩道」には、街灯などの照明はありません。懐中電灯の使用も禁止なので、コースの要所ではホタルを守る会のボランティアガイドが誘導してくれます。
群馬県利根郡みなかみ町月夜野1714-2
散策自由
なし※荒天や熊出没の場合は観賞会を中止する可能性あり
無料
上毛高原駅より徒歩5分/関越自動車道月夜野ICより10分
あり(無料)
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岡崎市ホタル学校【愛知県】
閉校となったノスタルジックな小学校が舞台

[見頃]5月下旬~6月下旬
愛知県岡崎市で蛍観賞ができるのは、閉校になった小学校をリノベーションした「岡崎市ホタル学校」やその周辺。例年5月下旬から蛍が少しずつ飛びはじめ、6月末まで見られます。6月中旬~下旬のピーク時には、学校周辺の区域で1000匹以上飛び交う年もあります。
額田(ぬかた)地域のゲンジボタルは、岡崎市の天然記念物です。地元の人々の地道な保護活動により、現在の環境が守られています。
河川沿いは足場が悪いため、運動靴や長靴を履くのがおすすめ。また、シーズン中は混雑するので、誘導員や地元のホタル保存会のスタッフの指示に従って行動してください。
愛知県岡崎市鳥川町小デノ沢5-1
【6月】9時~21時(最終入館20時30分)【7月~10月、3月~5月】9時~17時(最終入館16時30分)【11月~2月】9時~16時(最終入館15時30分)
火(祝日の場合は翌平日)、12月28日~1月4日
無料
本宿駅よりバスで30分※乗り継ぎあり/新東名高速道路岡崎東ICより12分
あり(無料)
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長岡のゲンジボタル及びその発生地(天野川)【滋賀県】
河川沿いに特別天然記念物・蛍の希少な光が飛び交う

[見頃]5月下旬~6月上旬
琵琶湖に注ぐ天野川一帯は、ゲンジボタルの大生息地。この地域は「長岡のゲンジボタル及びその発生地」として1952年に国の特別天然記念物に指定されました。
蛍発生地として天然記念物指定を受けている場所は全国で11カ所ありますが、特別天然記念物指定の地域は長岡のみとなっており、希少な地域といえます。
ゲンジボタルは5月下旬から飛びはじめ、6月上旬まで観賞が可能。見頃は20時~21時頃で、幻想的な光が楽しめます。
また、2024年6月1日(土)には米原市「天の川ほたるまつり」、8日(土)に「ほたるまつり音楽祭」が開催。キッチンカーなども出店されるそうです。JR近江長岡駅から徒歩5分程なのでぜひ電車で訪れてください。
滋賀県米原市長岡・天野川周辺
散策自由
なし
未定
近江長岡駅より徒歩5分/北陸自動車道米原ICより15分
なし※駅前に25台有料駐車場あり。混み合うため公共交通機関を推奨
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北房ほたる公園【岡山県】
緑豊かな里の川沿いを、蛍の光が穏やかに灯す

[見頃]5月下旬~6月下旬
岡山県真庭市(北房地域)は、「ふるさといきものの里百選」にも選出された自然豊かな蛍の里。備中川全域に蛍が発生し、川沿いの数kmにわたりゲンジボタルの乱舞が見られます。
観賞スポットは「北房ほたる公園」がおすすめ。公園周辺にはヘイケボタルとヒメボタルも生息しているので、時期が合えば3種類の蛍を観賞できます。
ゲンジボタルは5月下旬から飛びはじめ、6月上旬~中旬が乱舞のピーク。ヒメボタルは6月中旬から飛びはじめ、6月下旬~7月中旬がピークです。
岡山県真庭市下呰部1203-1
散策自由
なし
無料
備中高梁駅より備北バスで40分/中国自動車道北房ICより10分
あり(無料)※観賞期間中の夜間は北房振興局駐車場を利用
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本匠ほたるの里(番匠川)【大分県】
川面から岸辺まで、広範囲にわたり蛍が乱舞する様は圧巻

[見頃]5月中旬~6月中旬
大分県佐伯市本匠を流れる番匠川(ばんじょうがわ)上流域では、ゲンジボタルの乱舞が見られます。特に鹿渕地区は“ほたるの里”として整備されており、九州有数の蛍の密集率を誇るとも言われています。蛍が川一面に広がって光り輝くさまは圧巻です。
5月中旬から飛びはじめ、見頃は5月下旬~6月中旬、時間は19時30分~21時がおすすめです。5月下旬は番匠川の下流域、6月上旬は上流域へと観賞スポットが変わります。
大分県佐伯市本匠大字堂ノ間
散策自由
なし
無料
佐伯駅より佐伯市コミュニティバスで60分/東九州自動車道佐伯ICより35分
あり(無料)
「本匠ほたるの里(番匠川)」の詳細はこちら
ほたるのふるさと相河川【長崎県】
美しく光る蛍を、離島ののどかな里山風景とともに味わえる

[見頃]5月下旬~6月上旬
長崎県・新上五島町の相河地区は、上五島の中でも多くの蛍が観賞できる場所。相河川(あいこがわ)第一橋付近では、光る間隔が長く強い光を放つ優雅な印象のゲンジボタルと、フラッシュをたいたような短い間隔で発光するヒメボタル、2種類の蛍の美しい乱舞が楽しめます。
見頃は5月下旬~6月上旬。時間は、19時~21時頃が観賞に適しています。
長崎県南松浦郡新上五島町有川郷 相河川第一橋付近
散策自由
なし
無料
有川港より西肥バスで45分
あり(無料)
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久米島ホタル館【沖縄県】
春先から秋までの長期にわたり蛍観賞が楽しめる

[見頃]4月上旬~5月中旬、8月~10月
沖縄県・久米島に位置する「久米島ホタル館」は、久米島だけに生息する沖縄県の天然記念物に指定されているクメジマボタルの保護観察施設です。
施設周辺の自然保護区域では長い期間蛍を観賞でき、4月中旬~下旬はクメジマボタル、4月下旬~5月中旬と8月~10月はオキナワスジボタルなど、陸生の蛍が見られます。夜には鑑賞会「ミステリーナイトウォッチング」(有料)が開催され、周辺の森や川を探検しながら蛍や季節の生きものを観察します。
クメジマボタルを楽しむなら、4月中旬~5月上旬に行われる「クメジマボタル観察会」(有料)に参加するのがおすすめ。「久米島ホタル館」のクメジマボタルは、2000年を過ぎた頃に蛍がほぼ消滅した川を、約10年かけて蘇らせたことで再生した貴重なホタルです。その水生のクメジマボタルについて、約60分にわたって案内してもらえます。
蛍が飛ぶ時期はハブが活動をはじめる時期なので、草むらやサトウキビ畑に入らないよう注意してください。
沖縄県島尻郡久米島町字大田420
9時30分~17時
月、火
入館料【高校生以上】100円【小・中学生】50円【幼児】無料、ミステリーナイトウォッチング・クメジマボタル観察会【高校生以上】3500円【小・中学生】2000円【幼児】500円
久米島空港より車で10分
あり(無料)
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【監修/大庭伸也】
長崎大学人文社会科学域(教育学系)教育学部 生物学教室 准教授
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※この記事は2024年4月12日時点での情報です。休業日や営業時間など掲載情報は変更の可能性があります。
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じゃらん編集部
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