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2022.07.15

建築家・谷尻誠のサウナ建築と“サ旅”。滝壺や船上、雪風呂など「その土地ならではのサウナ体験をつくりたい」

今やサウナは「旅の目的」になりつつある。全国各地の有名サウナ施設を訪れる人、キャンプ場でテントサウナを楽しむ人。一部の愛好家だけでなく、広く親しまれるレジャーになってきた。建築家の谷尻誠さんは、そんなサウナの楽しみ方をさらに一歩進めるべく、土地の魅力とサウナを掛け合わせた体験施設を手がけている。

今回は「SUUMO」✕「じゃらん」のコラボ企画として、SUUMOでは「おうちサウナ」、じゃらんでは「旅サウナ」それぞれの視点からサウナの楽しみ方を紐解いてみたい。自身もサウナーである谷尻さんにその魅力と、谷尻さんが手がけた“旅サウナ”の話、サウナと旅を掛け合わせることで生まれる可能性などについて聞いてみた。

「サウナ」と「茶室」は似ている

――谷尻さんがサウナにハマったきっかけを教えてください。

3年ほど前“ととのえ親方”こと、プロサウナーの松尾大さんに“アウトドアサウナ”に誘われたんです。野外に設置したテントサウナに入り、湖に飛び込みました。それがものすごく気持ちよくて。そのときに初めてサウナで“ととのう(※)”体験をしたんです。ロケーションも素晴らしくて、本当に最高でしたね。そこからサウナにハマり、キャンプに行く時も常にテントサウナを持参するようになりました。
※ととのう…サウナルーム、水風呂、外気浴の後に得られる強い幸福感や満足感のこと

(写真撮影:嶋崎征弘)
谷尻誠さん(写真撮影:嶋崎征弘)

――その後、自宅にもサウナをつくってしまったそうですね。

そうですね。休日などに外出をしていても、週に3〜4日ほどはサウナに入っていますよ。

――さらには仕事でも「サウナ建築」を手がけるようになったとのことで、これまでにつくったサウナのなかで、印象深いものは何ですか?

1つ挙げるなら「サ室」ですかね。相模湖近くの会員制キャンプ施設「DAICHI silent river(※)」(神奈川県相模原市)内に建てたサウナ小屋です。

※DAICHI silent river…“能動的ラグジュアリー”を提案するアウトドアフィールド。土地が持つポテンシャルを最大限に引き出すため、建築家・谷尻さんをはじめ、造園家やプロジェクトマネージャー、クリエイティブディレクターによるチームが、その場所でしか味わうことのできない体験価値をつくりだしている施設。「サ室」は会員の予約がないときは、一般客も利用可(要問合せ)

――茶室ならぬ「サ室」なんですね。

「サウナ」と「茶室」って似ていると思ったんですよ。かつての茶室では武士や将軍は刀を置き、地位も名誉も関係なく茶席を楽しんでいました。サウナも同様に、みんなが裸になって年齢や職業に関係なく楽しむものですよね。

それに、空間への向き合い方も一緒だと思うんです。どちらも1つの空間のなかで、精神を統一します。その瞑想のような部分も似ていると思い、茶室のようなサウナをつくろうと考えたんです。

(写真提供:(株)DAICHI)
DAICHI silent river(写真提供:(株)DAICHI)
(写真提供:(株)DAICHI)
谷尻さんが手がけた「サ室」(写真提供:(株)DAICHI)
(写真提供:(株)DAICHI)
(写真提供:(株)DAICHI)
(写真提供:(株)DAICHI)
(写真提供:(株)DAICHI)

――デザインも茶室のようですね。

室内の広さは国宝の茶室「待庵」と同じ2畳です。また、外壁は杉皮張りで、内壁は和紙張り。そして、屋根は銅板葺きにしています。これは伝統的な茶室への敬意でもありますが、サウナの新しい形の提案でもあるんです。

――確かに、こんなサウナは見たことがありません。

サウナってまだクリエイティビティがあまり入り込んでいない領域だと思うんです。だから、サウナに閉鎖的な空間をイメージする人も多いんですよ。でも、従来のログハウスのようなサウナ以外にも、もっと自由なサウナ建築があってもいいじゃないかと。

そこで「サ室」では、景色を楽しめるように壁をガラス張りにし、開放的な気分が味わえるようにしました。あくまで、ここのサウナの主役は自然。緑豊かな山々と穏やかな川に囲まれた、この風景が素晴らしいんです。

(写真提供:(株)DAICHI)
DAICHI silent river周辺の風景(写真提供:(株)DAICHI)
(写真提供:(株)DAICHI)
(写真提供:(株)DAICHI)
(写真提供:(株)DAICHI)
(写真提供:(株)DAICHI)

――自然とサウナの両面から癒される。相性抜群ですね。

また、炎が見えるサウナストーブもデザインしました。自分で薪をくべることから始まり、揺れる炎を見て、煙と木の香りを嗅ぎ、パチパチと薪が爆ぜる音を聞く。五感が刺激されて、良いリフレッシュになると思います。もちろん、大自然のなかでの水風呂と外気浴もたまりませんよ。

(写真提供:(株)DAICHI)
サウナストーブ(写真提供:(株)DAICHI)

――都会では味わえない体験ですね。

「DAICHI silent river」は「足りないことを楽しむ」がコンセプト。僕はサウナをはじめ、施設内の建物を担当しており、キャンプ・サウナを通して、体験価値を届けるような施設を目指しています。例えば、自分で薪を割ったり、火を起こしたり、コーヒーを淹れたり……正直、不便に感じるかもしれません。でも、だからこそクリエイティブであり、五感が研ぎ澄まされていくんです。ととのったあとのキャンプ飯は最高ですよ。どこの高級ホテルだろうと、三ツ星レストランだろうと、あの感動には変え難いですね。

――便利なことに慣れすぎてしまうと、そうした人間にとっての根源的な喜びを忘れてしまいそうです。

そうですよね。その点、サウナは火、木、水、石で構成されており、どれも人類が誕生する前からあるものですよね。石に水をかけたときの音が気持ち良いとか、外気浴中の星空が綺麗だとか、この便利な世の中にあえてプリミティブ体験をすることが「豊かさ」につながると思うんですよ。

体験+サウナを全国に広げていきたい

(写真撮影:嶋崎征弘)
(写真撮影:嶋崎征弘)

――進行中のプロジェクトはありますか?

今後は静岡県御殿場市や千葉県いすみ市など、全国に「DAICHI silent river」をつくっていこうと思います。理想は100箇所。全てサウナ付きにしたいです。

それが実現すれば、旅行自体の楽しみ方もさらに広がると思います。イメージとしては「土地ごとのアクティビティ」+「ロケーション&サウナ」のような楽しみ方ですね。例えば、北海道でスノーボードを楽しんだ後、近くの「DAICHI silent river」で雪景色とサウナを楽しむ。そんな新しい文化が生まれてくれたらと思っています。

――ちなみに、現時点で行ってみたい国内のサウナはありますか? 

北海道で「アヴァント」という、凍った湖に穴を開けて水風呂として入るアクティビティをやっているんです。サウナの本場であるフィンランドでも愛されている入り方なので、ぜひ体験してみたいですね。

(写真提供:アヴァント運営実行委員会)
(写真提供:アヴァント運営実行委員会)
(写真提供:アヴァント運営実行委員会)
(写真提供:アヴァント運営実行委員会)
(写真提供:アヴァント運営実行委員会)
(写真提供:アヴァント運営実行委員会)
■北海道アヴァントin 屈足湖
北海道上川郡新得町字屈足808(受付施設:湯宿くったり温泉レイク・イン)

毎年1月中旬~3月中旬まで毎日開催(事前に要予約)
(1)10:00-12:00 (2)13:00-15:00回
※実施当日の天候条件等で中止する場合あり
※実施期間は湖の氷の状態等により変更する場合あり
1人20,000円(税込)
[問合せ]十勝サウナ協議会
0156-65-2141
【電車】札幌駅から新得駅まで最短2時間11分、新千歳空港駅から新得駅まで最短1時間30分、トマム駅から新得駅まで最短24分、【車】新得駅から車で約20分
50台(無料)
「北海道アヴァントin 屈足湖」の詳細はこちら
「湯宿くったり温泉レイク・イン」の口コミ・周辺情報はこちら

――谷尻さんはサウナ自体の心地よさだけでなく、その土地ならではの体験も含めて味わってほしいとお考えなんですね。

そうですね。湯来町(現・広島市)にある山奥の滝壺の真横に土地を買ってサウナをしたんですが、最高でした。サウナの後に5mほどの滝壺にダイブできるんです。僕はサウナをつくりたい、というより「サウナを通した体験」をつくりたいと思っています。それが、その場所でしか味わえない特別な体験であれば、わざわざ行きたいと考える人も多いでしょうから。

――例えば、今後サウナをつくってみたい、特別な体験ができそうな場所はありますか?

漠然と思い浮かぶのは、洞穴のようなサウナとか、船上サウナですかね。あとは、まだ企画段階ですがスキー場のゲレンデのなかにサウナをつくる提案をしています。水風呂の代わりに雪のなかに飛び込むのもアリかなと。スキーの途中で「ちょっと休憩してくる」とサウナを2〜3セットやって、またスキーに戻るのも面白いじゃないですか。

――そうやって自然のなかにあるサウナが全国に増えるとブームを超え、フィンランドのようなサウナ文化が日本にも定着するかもしれませんね。

そうなれば嬉しいですし、いつか本当に定着すると思いますよ。そのためにも、これからもロケーションや体験を重視したサウナを日本全国につくっていきたいですね。

今やすっかり、文化として根付いたサウナ。近所のサウナに足繁く通う人もいれば、全国各地のサウナ施設を求めて旅をする人も増えている。しかし、今後はサウナや水風呂の良さだけでなく、「サウナを通した体験」も重要視されてくるように思う。

●取材協力
SUPPOSE DESIGN OFFICE
https://suppose.jp/

DAICHI silent river
https://daichisilentriver.snack.chillnn.com/

●関連記事
谷尻誠さんのおうちサウナについては「SUUMOジャーナル」で
建築家・谷尻誠のサウナ道。「日々ととのい立ち止まる暮らしを全国に。一家に1サウナ時代がきたら素晴らしい」
https://suumo.jp/journal/2022/07/15/188417/

※この記事は2022年7月7日時点での情報です。休業日や営業時間など掲載情報は変更の可能性があります。日々状況が変化しておりますので、事前に各施設・店舗へ最新の情報をお問い合わせください。
※メイン写真提供:©︎清春芸術村/Foundation Yoshii
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小野洋平(やじろべえ)  小野洋平(やじろべえ)

編集プロダクション「やじろべえ」所属。最後に食べたいものを聞かれたら「旅館の朝食」と答えています。https://onobenriya.com/

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