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2024.03.09

海なし県(内陸県)は全国で8県!覚え方や、海がないからこその魅力とは?

太平洋、日本海、オホーツク海、瀬戸内海、そして東シナ海という5つの海に囲まれた日本は、ほとんどの都道府県が海に接しています。しかし中には海岸線を持たない内陸の都道府県、「海なし県」が存在します。

自虐的に語られることも少なくない「海なし県」ですが、海がないからこそ独自の食文化が生まれていたり、驚くような歴史があったりと、意外と知られていない魅力もいっぱい!今回はそんな「海なし県」の魅力をたっぷり紹介します。

記事配信:じゃらんニュース

「海なし県」とは?日本にいくつある?

海岸線を持たない内陸の都道府県

「海なし県」とは太平洋や日本海などいずれの海とも接することがなく、四方をほかの都道府県で囲まれた県のこと。全部で8県あり、本州の真ん中あたりにまとまっています。地理的に山間部が多く、緑豊かな地域が多いのが特徴です。

「海なし県」は栃木県、群馬県、埼玉県、山梨県、長野県、岐阜県、滋賀県、奈良県の8県

(画像提供:イラストAC)
(画像提供:イラストAC)

「海なし県」と呼ばれる内陸の都道府県は、栃木県、群馬県、埼玉県、山梨県、長野県、岐阜県、滋賀県、奈良県の8県。

関東地方3県、中部地方3県、近畿地方2県です。奈良県以外はすべて隣り合っていますね!

「海なし県」の覚え方

「グサッと柳(やなぎ)しなる」と語呂で覚える!

グサッと柳(やなぎ)しなる

「海なし県」は8県の頭文字を語呂合わせで覚えるといいですよ。

グ(群馬県)
サッ(埼玉県)
と(栃木県)
や(山梨県)
な(長野県)
ぎ(岐阜県)
し(滋賀県)
なる(奈良県)

ちょっと怖い語呂合わせですが、ぜひ覚えてみてくださいね!

次からは各県の魅力を紹介します。

群馬県の魅力

山の多い立地がもたらすレジャーが豊富

画像提供:観光ぐんま写真館
スキーをする「ぐんまちゃん」(画像提供:観光ぐんま写真館
(画像提供:Adobe Stock)
「有馬温泉」「下呂温泉」と並び日本三名泉に数えられる「草津温泉」(画像提供:Adobe Stock)

“群馬県民は周囲の山を見れば方角がわかる”といわれる通り、県民のソウル・マウンテン赤城山や榛名山(はるなさん)はランドマーク的存在。この2つの山は実は活火山でもあり、群馬県にはほかに浅間山、草津白根山、日光白根山と、合計5つの活火山があります。

そして、草津白根山の東山麓にあるのが、日本屈指の温泉地「草津温泉」。国内でも珍しい酸性度の高い泉質で効能も豊かです。海のない群馬県ですが、その分、火山の恩恵に恵まれているんですね。

群馬県民が海に行く場合は北の新潟(約160km・3時間※)、東の茨城(約170km・2時間※)、南の神奈川(約150km・2時間半※)と、いずれも遠いながら海水浴の選択肢が多いのも特徴です。※それぞれ群馬県庁から海岸までの距離と車での所要時間 

海に出るまでに時間はかかりますが、代わりに冬の遊び場は豊富。県北部には「丸沼高原スキー場」や「たんばらスキーパーク」など、山の裾野にたくさんのゲレンデが点在していますよ!

埼玉県の魅力

ウインドサーフィンは海だけじゃない!

(画像提供:Adobe Stock)
国の史跡にも指定されている富士見市の「水子貝塚公園」(画像提供:Adobe Stock)

関東を代表する「海なし県」のひとつ埼玉県。東京都に隣接し、場所によっては30分程度で都心までアクセスできるなど利便性が高い一方で、市街地を少し離れると農地が広がっており、のどかな面もあります。

1都3県(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)の中でも海がないことをネタにされがちな埼玉県ですが、実は県の南部から東部にかけて100カ所以上の貝塚が分布しており、数千年前の縄文時代には埼玉県南部まで東京湾が入り組んでいたことがわかっています。そう、埼玉県も昔は「海あり県」だったのです!

現代では流通の発達により、海がなくとも各地から新鮮な魚が入るようになりました。さいたま市にある「大宮総合食品地方卸売市場」(通称:大宮市場)は関東有数の規模を誇り、鮮魚店やマグロ専門店がずらりと並んでいます。埼玉県民の“魚愛”は強く、鮮魚が味わえる居酒屋や回転すし店の軒数も多いといわれていますよ。

(画像提供:Adobe Stock)
荒川に造られた調整池「彩湖(さいこ)」ではウインドサーフィンが楽しめる(画像提供:Adobe Stock)

さらに、戸田市にある「彩湖」ではウインドサーフィンが楽しめるほか、八潮市にはマリーナも点在。海はなくとも、ウォーターアクティビティが楽しめるスポットがあるんです!

栃木県の魅力

夏は「マンプー」へGO!

井頭公園一万人プール
県民から“マンプー”と呼ばれる「井頭公園一万人プール」

暑い夏は日光・鬼怒川や那須・塩原など、栃木県での避暑はやはり山だけなのか…と思いきや、夏休みともなると多くの人が集まるプールがあります。宇都宮市の隣、真岡市にある「井頭公園一万人プール」(通称:マンプー)です。

面積は6万8000平方メートル!1周400mの流れるプールやウォータースライダーなど7つのプールがあり、夏の水あそびニーズをしっかり満たしています。2023年には50周年を迎え、何世代にもわたって県民に愛されているんですよ。

「とちぎ海浜自然の家
茨城県にある「とちぎ海浜自然の家」。ロッジやキャンプ場もあり施設から直接海へ出られる

また、隣の茨城県鉾田市には「とちぎ海浜自然の家」という学習施設があります。こちらは普段海と接することの少ない栃木県の子どもたちのために造られた教育施設で、栃木県の子どもは臨海学校などで利用することが多いようです。個人での利用も可能で、栃木県民は日帰り・宿泊とも低価格に設定されています。

ちなみに、栃木県には「モロの煮付け」という郷土料理があります。モロとはネズミザメ(モウカザメ)のことで、サメ肉の需要が少なかったその昔、内陸部の栃木県では貴重なタンパク源として重宝されたのが始まり。今でも県内のスーパー等では「モロ」の切り身が売られていますよ!

山梨県の魅力

甲府市はマグロ消費量が全国2位

(画像提供:Adobe Stock)
海はないが富士山がある!周辺の富士五湖も自慢。写真は河口湖(画像提供:Adobe Stock)

日本人が大好きな魚のひとつ、マグロ。総務省の家計調査によるとマグロにかける消費支出額は1位の静岡市に次いで、2位はなんと山梨県の県庁所在地である甲府市(※)。3位の東京都区部を抑えてのこの順位には、海がないからこそ魚を求める山梨の県民性が表れていそうですね。スーパーの鮮魚コーナーへ行くと、ズラリと並ぶマグロに驚かされます。

なぜこうも山梨県民はマグロが好きなのか?そのルーツは江戸時代にまでさかのぼるといわれています。静岡県の駿河湾からは、当時も近隣各地にたくさんのマグロが流通していました。今のように冷蔵や冷凍の技術が発展していないため、鮮度を保ったまま魚を運べる限界地点にあたるのがちょうど山梨県の甲府でした。この限界地点は「魚尻点(うおじりてん)」と呼ばれ、気温の下がる冬には甲府からさらに北の長野方面まで延びたといわれています。

はるばる遠くから運ばれてきたご馳走として、静岡のマグロは甲府を中心に流通。山梨県は大人数で集まる無尽(むじん)の習慣が色濃い土地柄ということもあり、その会場として寿司店が重宝されたことも、県民の魚好きに繋がっているという説もあります。

(画像提供:Adobe Stock)
甲州名物「アワビの煮貝」は県内各地の飲食店で味わえる(画像提供:Adobe Stock)

さらに山梨県は「アワビの煮貝」も名物。その昔、沼津湾に出かけた甲州商人が、アワビを浜で煮込んで醤油樽に漬け込み、馬の背に乗せて帰路に就いたところ、馬の体温と振動で甲州に戻り着く頃にちょうど柔らかく熟成され、おいしい煮貝ができあがったことが始まりとされています。

※参考:総務省統計局 家計調査(二人以上の世帯) 品目別都道府県庁所在地及び政令指定都市ランキング(2020年~2023年平均)

長野県の魅力

「塩の道」と「浦島太郎伝説」

画像提供:一般社団法人長野県観光機構
サバ缶を使った根曲り竹の味噌汁(画像提供:一般社団法人長野県観光機構)

上高地や白馬など圧倒的にアルプスのイメージが強い長野県。内陸にありながら実は海との縁が深く、松本市と新潟県糸魚川市とを結ぶ「千国(ちくに)街道」は古くから塩の輸送路として重宝されてきたため、通称“塩の道”と呼ばれています。松本市の少し南にある塩尻市は、海から塩を運ぶ限界地点(終点)だったことから、「塩」の「尻」とその名がついたという説もあるんですよ!

ところでここ数年、手軽で体によいと話題に上ることの多いサバ缶ですが、海のない長野県ではサバ缶が登場した昭和30年代から重宝されてきました。その代表格がサバの水煮缶と根曲がり竹(チシマザサの若竹)を使った味噌汁。サバの脂が味噌と混ざり合い、コクと風味が抜群!長野県の郷土食のひとつにも数えられています。

(画像提供:Adobe Stock)
木曽郡上松町にある「寝覚(ねざめ)の床」。浦島太郎はココで目覚めたとか…!(画像提供:Adobe Stock)

また、県南部の木曽郡上松町にある景勝地「寝覚の床」にはなんと浦島太郎伝説が残り、町の公式キャラクターも浦島太郎というから驚きです。海へと出かけ、海底の竜宮城で過ごした浦島太郎が目覚めたのは、山深い内陸の地だったんですね…(諸説あります)。

岐阜県の魅力

夏は何はともあれ「川」へ

(画像提供:Adobe Stock)
岐阜城から望む長良川。毎年5月中旬~10月中旬には約1300年続く「鵜飼」も行われている(画像提供:Adobe Stock)
(画像提供:Adobe Stock)
県外からの来客にまずは「天然モノの鮎を食べさせたい!」と思う岐阜県民が多いとか(画像提供:Adobe Stock)

長良川、木曽川、揖斐川(いびがわ)という3つの一級河川が流れる岐阜県は清流が誇り。「好きな魚は?」と聞かれて海の魚を答えるのが一般的ですが、多くの岐阜県民が愛してやまないのが川魚の王様、鮎。遠火でじっくり焼くと、実はホクホクとして上品な味わいです。清流長良川の鮎は2015年に世界農業遺産にも認定されました。

長良川に限らず、岐阜県には鮎釣りのできる河川がたくさんあり、“郡上おどり”で知られる郡上市の和良川(わらがわ)や、温泉で知られる下呂市を流れる馬瀬川などはその代表格。

川はまた、岐阜県民にとって海水浴に替わる夏の遊び場でもあります。ラフティングやカヌーなどのアクティビティも盛んに行われ、各地の川原では水あそびをしながら気ままにバーベキューをするのが定番。そのため、「岐阜県民は一家に一台バーベキューセットを持っている」といわれるほど!

(画像提供:飛騨・高山観光コンベンション協会)
江戸時代の趣を残す建築物が軒を連ねる飛騨高山。街歩きが楽しい(画像提供:飛騨・高山観光コンベンション協会)

そして意外にも海の魚がおいしいといわれるのが、県北部にある観光地「飛騨高山」です。富山県からの距離が近いため魚の輸送時間が短く済み、市内の寿司店や鮮魚居酒屋では新鮮な海産物が味わえるんですよ。富山から飛騨を経由して信州までブリを運んでいた、かつての「ブリ街道」の名残かもしれませんね!

滋賀県の魅力

海はないが、びわ湖がある

(画像提供:公益社団法人びわこビジターズビューロー)
総面積670平方キロメートルの広大なびわ湖には4つの島が点在。写真の「沖島」は有人島(画像提供:公益社団法人びわこビジターズビューロー)

「湖と書いて“うみ”と読む」。半ば強引に思われますが、滋賀県では「湖(うみ)」という歌詞が校歌に登場するなど、比較的よくある話なのだそう。1周約200km、場所によっては対岸の景色が霞んで見えるほど大きなびわ湖は、確かに海と呼びたくなるほどの存在感です。

実際にその昔はびわ湖を「淡海(あわうみ)」と呼んでいた時代があり、これが転じて「淡海(おうみ)」、さらに転じて「近江」となった説もあります。

(画像提供:公益社団法人びわこビジターズビューロー)
夏は浮き輪を持ってびわ湖へ!湖周辺にはキャンプ場も数多く点在(画像提供:公益社団法人びわこビジターズビューロー)

滋賀県民の水あそびといえば、やっぱりびわ湖。地元では海水浴ならぬ「湖水浴(こすいよく)」と呼びます。海水と違い塩分を含まないためベタベタしづらく、クラゲが出ないのも特徴です。広大なびわ湖の湖岸にはあちこちに水泳場が点在し、夏は穏やかな水辺で湖水浴を楽しむことができますよ!

ちなみに、びわ湖に生息する魚は「湖魚(こぎょ)」と呼ばれています。ビワマス、コアユ、ハス、ホンモロコ、ニゴロブナ、スジエビ、ゴリ、イサザは「琵琶湖八珍」と呼ばれ、びわ湖の漁業を支えています。「湖魚」を使った佃煮やニゴロブナを塩漬けにして自然発酵させた郷土食「ふなずし」は、滋賀を訪れたらぜひ味わいたい逸品です。

奈良県の魅力

貴重な地場産業が今なお残る

(画像提供:Adobe Stock)
光沢のある白蝶貝や高級感のある黒蝶貝などが貝ボタンの原料(画像提供:Adobe Stock)

7月の第3月曜日は国民の祝日「海の日」ですよね。しかし、海のない奈良県ではこの日を「奈良県山の日・川の日」と条例で制定。山と川の重要性や魅力について理解を深め、誇りと愛着を持って次世代へ引き継ぐことを目的にしています。

奈良盆地のほぼ中央にある川西町は「貝ボタン」の生産地。海がない土地にもかかわらず、その生産量は全国屈指のシェアを誇ります。明治20年頃にドイツ人の技術指導者によって神戸に伝わった貝ボタン産業は、やがて大阪や和歌山へと伝わり、明治30年頃に奈良へと伝わりました。農家の副業として取り入れられ、戦後の最盛期には約200世帯もの事業者が存在したといわれています。

原材料となる貝は当初から輸入でまかなわれていたため、貝ボタンを生産するのに海沿いの地域である必要はありませんでした。港町神戸と大阪の交流、さらには大阪と奈良との経済交流によって、現在まで続く貝ボタン産業が根付いたというわけです。

(画像提供:Adobe Stock)
柿の産地である五条や吉野川流域が「柿の葉寿司」発祥の地といわれる(画像提供:Adobe Stock)

奈良県といえば「柿の葉寿司」も名物。柿の葉寿司とは塩で締めたサバを薄く切り、握った酢飯にのせて柿の葉で包んだ郷土料理。山間の地では貴重なタンパク源だった海の幸を、防腐効果のある柿の葉で包んで長く味わうというのは、冷蔵技術がなかった時代の里山の人々の知恵ですね!

「海なし県民」あるある

最後に、「海なし県」で育った人、または現在住んでいる人に「あるあるネタ」を聞いてみました!

山が見えないと落ち着かない

「海なし県」の多くは山に恵まれたロケーション。そのため「山で方角を確認」「山の表情で季節を感じる」など、日々、山とともに生きていることを実感させるコメントが多数寄せられました。山の近くで暮らしていると、開けすぎた景色は落ち着かないんですね…。

海が見えると「海だ!」と叫んでしまう

「大人になった今は恥ずかしいので心の中で叫んでいる」「海が見えると海だ!船が見えると船だ!と叫んでしまう」など、普段とは圧倒的に違う景色に心を奪われがちというコメントも。海はときめきの対象でもあるようです。

海が怖い

「スケールが大きすぎる」「水平線が遠すぎる」「足がつかない」「潮のベタベタしたかんじが怖い」「夜の海はもっと怖い」など、海に対して恐怖心を抱くコメントも多数。海での経験が少ない分、恐れと畏れが入り混じった感情が湧いてくるのかもしれませんね。

まるごと一尾の魚を前にすると驚く

海のない地方の人が普段目にする魚は、刺身や切り身、干物、缶詰、加工品など人が手を加えたものがほとんど。そのため、「頭から尻尾までまるごとそのままの大きな魚を前にするとちょっと緊張する」という声も。鮮魚店で泳いでいる活魚にも興味津々!?

でも海産物が好き

海がないのに「海産物が好き」というのは意外ですが、魚が身近にないからこそ魚が恋しく、おいしい魚に出合ったときには感動もひとしお。特別な席ではやはりおいしい海の魚が喜ばれるようです。

まとめ

海がないのに海産物を使った郷土料理が根付いていたり、内陸部にもかかわらず魚の消費が多かったりと、意外な事実にも驚かされます。しかし、海に対する「海なし県民」のコメントからは、海に対する独特の距離感を感じますね。「海なし県民」にとって、海は広くて大きくて…やっぱりちょっと怖いのかも!?

※この記事は2024年2月28日時点での情報です。休業日や営業時間など掲載情報は変更の可能性があります。
※掲載されている情報や写真については最新の情報とは限りません。必ずご自身で事前にご確認の上、ご利用ください。

小林 亜紗子  小林 亜紗子

岐阜県生まれ。旅行情報誌『東海じゃらん』編集部を経てフリーに。コーヒー、温泉、音楽好き。民芸や郷土食、地域の慣習など、無名の人々に継承されてきたものに惹かれます。二人の子どもたちを各地の温泉に連れ回し中。

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