![]() |
|
|
![]() |
|||||||||
![]() |
僕たちは船上であまり会話しない。フミはうとうと眠るか、テレビ画面をぼんやり眺めるかしている。僕はあの”自動車搬入口“について考えている。たまたま目撃したけれども、暗示的な光景。船首に大きな口が開いていたみたいだった。埠頭から路はえんえん続いていて、そこに車が吸いこまれる。そして ![]() 二時間と二十分弱でフェリーは佐渡の両津港についた。レンタカーを借りる。地図を見て、こんどはハッとした。三五〇号線は終わっていない。カーフェリーの航路の終点となった両津港を起点に、国仲平野をすうっと抜けて、佐渡島の南端・小木まで走っていた。 当然のように車をむかわせるルートは決定された。そもそも僕たちに目的なんてない。 ただ、途中で右折する。フミが「金山は見ておきたい」という。徳川初期からの史跡である佐渡金山。その坑道の入口が視野に入った瞬間に、僕はあっと思う。それこそが”自動車搬入口“が暗に示していた情景、ずばりのように感じられて。だから僕はシリアスに地中に下る。当時の採掘を再現しているロボット、というか人形たちの一挙手一投足にも、目を凝らす。それから水の音を聞いた。坑道を掘り進めば進むほど地下水は涌きでて、その排水の事業が最大のトライアルだったという。滴り落ちる水 ![]() けれども。 深いところで気持ちが澄む。まるで地中と対話しているかのように。 その晩は相川町に泊まる。徳川幕府の財政を支えつづけてきた金山の土地を後にして、ふたたび三五〇号線に乗る。徳川という”国“が終わるみたいだな、と考えていたら、ふしぎな国境を通過した。国府川を渡ったところに『アルコール共和国に、ようこそ』といった表示がある。一瞬、目に入った。フミが助手席でガイドブックを捲っている。 「この真野町は」とフミが読みあげる。「酒造りの里として、二十年前に独立を宣言したんだって」 「アルコール共和国?」ふざけているのかな? 「あ、蔵元で、無料の利き酒というのができるらしいよ」 だったら寄ろう。どうせ三五〇号線ぞいだ。 造り酒屋なんて見るのも初めてだ。いい匂いがする。空気がきりきり澄んでいる。利き酒コーナーのスタッフは親切に、何種類もの銘柄を勧めてくれた。運転に支障がない程度に”利き酒“してみる。僕は舌端にスウッと走った味わいや香りに感動して、思わず初心者っぽい感動を口にした。その言葉に、たぶん蔵元の経営者なのだろう、はっぴを羽織った男の人が反応してくれた。 「日本酒は、ふだんから飲みますか?」 いいえ、と僕は正直に答える。あまり機会がないので。 「そうですよね。だから、その機会を増やしたいんです」と彼はいった。「日本にしかない醸造酒ですから、スシのような日本料理とおなじに世界に広めていきたい。いろいろな国に。そして日本の若い人たちにも、もちろん。逆輸入でもいいですからね」と笑った。 車に戻るとき、いったい何カ国を僕たちは通過してきたんだろう、と考えた。いったい何十カ国の可能性が、このルートに ![]() ![]() やり直せないかな、と僕はフミにいった。 |
![]() |
|||||||||||||||
![]() |
|||||||||||||||
|
|||||||||||||||
![]() |
|||||||||||||||
いつかの新潟 TOPへ | |||||||||||||||
![]() |
|||||||||||||||
![]() |
|||||||||||||||
![]() |