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2018.03.17

「”街の物語”が紡がれたホテルを」21歳ホテルプロデューサーが話す”ストーリージェニックな宿”の真意

土地の空気感を表現したい

龍崎翔子さん

ーー今回、龍崎さんに1番に聞いてみたかったのが、単純に「龍崎さんはどんな旅をしているんだろう?」ということなんです。

実は私、今までそんなに旅行するタイプじゃなかったんです。

ーーそうなんですか⁈

家族や学校での旅行の経験はありますけど、自分ではあんまり。大学に入って一人暮らしを始めてからも、たくさん仕送りをもらってるわけじゃなかったので、箱根へ行くのが精一杯(笑)。

大学2年生から北海道・富良野でペンションを始めたので、いよいよ旅行に行く暇なんてなくなっちゃいました。むしろ、周りの子たちのほうがどんどん旅行していて。友達のinstagramを見て「あの子もアムステルダム行ってる!」みたいな。

ーー旅が好きすぎて自分でホテルを始めたのかな、と勝手に想像してたので意外です。

ホテルをやることに関しては、最初から課題解決という意識が強かったように思います。

小さい頃、家族でアメリカを旅行していて、毎日ホテル泊だったときがあるんですね。日中はずっと車で移動してるから、夜のホテルが楽しみなんですよ。でも、どのホテルも代わり映えしなくて、全部同じに見えたんです。

アメリカって土地ごとに気候も空気感も全く違うのに、ホテルは同じ。部屋に入るたびに「またこれ~?」って(笑)。自分だったらもっと個性のあるホテルを作るのにな、と思ったのがホテル経営の最初の動機でした。

ーー日本でも、ホテルは大体どこも同じような感じですよね。

もちろん、ビジネスホテルみたいに無個性なホテルもあっていいと思うんです。ただ、ローカルの空気感を表現しているホテルがあまりにも少ないのがもったいないなと。

HOTEL SHE, OSAKA
「HOTEL SHE, OSAKA」の内装は、ブルーのレンガを使い港町をイメージ

だから、私の手がけるホテルや旅館では、ローカルの空気を表現することを意識しています。

例えば「HOTEL SHE, OSAKA」がある大阪・弁天町は古くからの商店街にうどん屋やお好み屋が並んでいて、昭和の面影を感じられる土地。時代の遺物とされているこの街が、アナログカルチャーがリバイバルする現代の風潮の中で再び輝きを取り戻してほしい。そんな願いをこめて、レコードショップのポップアップストアを併設したり、全室にアナログレコードプレーヤーを設置したりしました。

ーーなるほど。旅には「違う価値観に触れる」という側面もあると思うのですが、宿がそうした機能を持ってもいいわけですもんね。今までレコードを知らなかった人が、「HOTEL SHE, OSAKA」に泊まったのをきっかけにレコード文化に触れる、というような。

ホテルは衣食住がそろう場所なので、「ライフスタイルの提案」ができると思っています。一度、体験をすることで広がる世界があります。だから、ホテルという箱を通してその体験のハードルを下げることで、その人の人生がより豊かになるといいなって思うんです。

ローカルという非日常と出会う楽しみ

龍崎翔子さん

ーーご自身の旅行経験は少ないとのことでしたが、その中で印象的な場所はありましたか?

つい先日、ベトナムに行ってきたんです。東南アジアの経済やカルチャー、ホテルシーンの調査のための出張だったんですけど、それが純粋に楽しかったですね。

ーー具体的にどんなところが楽しかったんでしょう?

まず、街の風景ですね。ベトナムはフランスの植民地だった歴史を持ち、中国の文化の影響も受けています。だから建物もフレンチコロニアル様式とシノワズリ(18世紀に西洋で流行した中国風の様式)の要素があり、東南アジアらしい雑多感もあり、社会主義のプロパガンダの垂れ幕が町中に垂れ下がっていて、しかも亜熱帯の植物がもりもり茂っている。

その土地の歴史というストーリーが折り重なって、様々な要素が混じり合い、世界のどこにもない光景を生み出している……それがすごく印象的だったんです。

ーーなるほど、建物や街並みの空気感に歴史を感じられたんですね。
あとは、バイクの二人乗りも楽しかったですね。

ーー二人乗り……?

ベトナムでは主要な移動手段がバイクなんです。向こうでUber(配車アプリ)を使うと、運転手である地元のおじさんとバイクに二人乗りして移動するんですね。そのとき、おじさんの肩に手を置くんですけど、旅行に行って現地の人を触る機会ってあんまりないじゃないですか。

ーーそうですね、確かに。

そんな風に地元の人とすごく近い距離でコミュニケーションをとれるのは、実は貴重な機会なんじゃないかと思ったんです。まあ、そのおじさんは英語が通じなかったので、何を話してるのかわからなかったんですけどね(笑)。

ーー(笑)。土地が違えば文化も全く違うし、ローカルとの交流って、ある種の非日常の体験と言えるかもしれませんね。

あ、それで言うと、昔行ったオーストラリアも印象的でした。地元の人たちの髪色がすごくカラフルで、東京でいう原宿みたいな感じだったんです。そんなにファッションの感度が高いのも知らなくて驚いたんですが、あれこそまさに「ローカルの非日常感」だったように思います。

街の魅力をいかに表現するか

THE RYOKAN TOKYO

ーー冒頭に「温泉のラグジュアリー化」という話がありましたが、今、特に温泉街のような場所は大きな転機を迎えているタイミングだと思うんです。旅行のあり方が変わって、その変化に乗れているかどうかで明暗が分かれ始めているような……。この転機をどのように考えていますか?

交通の便がいい温泉は寂れやすい、と言います。外資が入りやすく、街のコミュニティが分断されて旅情が失われてしまうからというのと、宿泊施設のサービスが肥大して大箱化が進むので、街を人が出歩かなくなるんです。

この失われてしまった「旅情」をいかに再創出してお客様に提案できるかが大事だと思っています。

だから、ローカルのお店が元気かどうかは大きいですよね。旅館が営業していても、周りの飲食店や土産物屋が閉まっていたら、お客さん目線では寂れて感じてしまうので。私自身、国内でも海外でも、旅先では街中をぶらぶら歩く方が好きなんです。

ーーいわゆる観光スポットには、魅力を感じない……?

もちろん好きですよ。でも正直、写真で見たらわかるとも思っちゃう(笑)。それより、街中での発見や出会いの方が楽しいです。ローカルの中でこそ、土地の空気感に触れられると思うし、その空気感をちゃんと言語化できないと、土地をブランド化することも難しいと思っています。

「THE RYOKAN TOKYO」のある湯河原も、大きな観光の目玉はないんです。でも、土地の歴史から生まれる独特の空気感がある。それをうまく言語化して、「THE RYOKAN TOKYO」を通じて表現していけたらと思っています。

2月から販売を始めた朝食
2月から販売を始めた朝食。約25種類の食材が詰まった、ぜいたくなご飯。

京都や鎌倉のように、街の魅力をきちんと自覚して言語化できている土地は日本にまだ少ないと思います。でも、そのことは裏を返せば希望というか、まだまだ発掘しがいがあるということなので。

ーーでは、これからはさらに色んな土地の魅力の発掘を……。

いえ、その前に、そろそろ休学してる大学に戻らなきゃと思ってます。卒業するなら今しかないと(笑)。

ーーまだ大学生なんですよね! そのことに驚きます。若きホテルプロデューサーとして注目が集まっている今の状況を、どう感じていますか?

龍崎翔子さん

昔はメディアに出るのに抵抗があって、自分とホテルを切り離したいと思ってたんです。でも最近は、せっかくストーリー消費が行われている時代ですから、私やチームのメンバーなど、ホテルの作り手という一番ストーリーのある存在を見せていきたいと思っています。

特にこれまでのホテルって、匿名的な感じがあったと思うんです。だから作り手の顔を見せることで、刺さるホテルづくりをしていきたいと思っています。

ーー龍崎さんやチームメンバーという個人や土地と紐づいた宿を目指す、ということですね。

はい。ストーリーが大事という話は前からあったと思うんですが、まだまだ業界でも自覚されていませんでした。だから私たちが手がける宿に関しては、誰がどんな想いで作っているかを、ちゃんと見えるようにしたいと思っています。

ーー旅行者目線でも、もっとストーリーを意識すれば旅を楽しめそうですね。そのためにはローカルに飛び込んだ先の、新しい出会いが重要になりそうです。今日はありがとうございました!

龍崎翔子(りゅうざき・しょうこ)
ホテルプロデューサー。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS Inc.を立ち上げ、「ソーシャルホテル」をコンセプトに掲げ北海道・富良野の「petit-hotel #MELON 富良野」や京都・東九条「HOTEL SHE, KYOTO」、大阪・弁天町「HOTEL SHE, OSAKA」、北海道・層雲峡「ホテルクモイ」、神奈川・湯河原「THE RYOKN TOKYO」をプロデュースする

友光だんご  友光だんご

編集者/ライター。1989年岡山生まれ。Huuuu所属。インタビューと犬とビールが好きです。 Twitter:https://twitter.com/inutekina 個人ブログ:友光だんご日記 http://tmmt1989.hatenablog.com/

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