登山初心者でも一度は登ってみたい「富士山」。各ルートの開山期間や山頂までの登山時間、登山道を歩く際の注意点、登山におすすめの時期、注意が必要な閉鎖期間などを紹介します。
その他、必要な服装や装備に持ちもの、車・電車・バスツアー別のかかる費用に事前の体力づくりまで気になる情報満載です!
【取材協力】
静岡県スポーツ・文化観光部 富士山世界遺産課
山梨県観光文化部 世界遺産富士山課
富士登山初心者が知っておきたい5つのポイント

世界遺産としても有名な「富士山」。日本の山の中で最も高い、3776mという標高を誇ります。
誰しも一度は登ってみたいと思うものの、登山初心者にとってはハードルが高く感じてしまうもの。
そこで、まずは富士登山を成功させるために知っておきたい5つのポイントをまとめました。
1.遭難・事故のリスクがあることを知っておく
富士山は前述の通り、標高3000mを超える高山です。
10時間以上の登山と、1000m以上の高低差を行ったり来たりすることは、思っている以上に体に負担がかかります。
富士登山では特に、“高山病”に注意が必要。高山病は、夜通しで登山して山頂で御来光を拝むことを目的とする弾丸登山や、日帰り登山など、短時間で一気に高度を上げてしまうことが原因で起こります。
寝不足のままで登山をすると、蓄積した疲労によって、思わぬ怪我や事故となる場合も。
また、夜間登山では、転倒や落石の危険があるため、必ずヘッドランプ・ヘルメットを用意しましょう。
ヘッドランプを持たない登山者が日没後に道を見失い、遭難するケースも増えています。出発前に、日没時刻やルートを十分確認し、早めの行動を心がけてください。
※谷側を歩くと落石を起こしてしまうことがあるため、特に下山道では谷側を歩かないようにしましょう。
そして、登山は下山するまでがゴールです。焦って下山して転倒…なんてことがないように、特に初心者は焦らずゆっくり、余裕をもったスケジュールで登ることをおすすめします。
2.万全の防寒対策が必要と知っておく
富士山では、気温や天候の急な変化に注意が必要です。
山頂の気温は、平地とはおよそ20度もの差があり、雨や強風時には体感温度はさらに下がるため、防寒対策はマストです。
特に、深夜から早朝にかけて登る場合、ダウンジャケットなどの厚手の防寒着は必須となります。
日の出前の山頂の気温は真夏でも“0度以下”になることも。平均気温ですら約6度!東京の真冬並みの寒さです。
初めての富士登山の方は、特に温かい格好を心がけるようにしましょう。また、たとえ雨の心配が無くてもしっかりとした雨具を常にバッグに用意しておくことも忘れずに。
3.緊急時どうすべきかを知っておく
どうしても自力で下山することが困難になり、救助を要請する際は、“110番”か“119番” に電話しましょう。
富士山では自分の居場所をわかりやすく伝えるために、標識に “現在地番号” というものが書かれています。この番号で自分の現在位置を伝えてください。
また、緊急時に自宅にいる家族を介して救急要請を行う人も多いようです。しかし、居場所の特定や負傷の具合、救助方法を判断するにあたり、現場に居ない人を介してのコミュニケーションはスムーズに伝わらないこともあるため、救助依頼は本人が電話するのがベストです。
もちろん、近くに助けてくれる別の登山者や、山小屋があればそちらに頼ってもOKです。
4.登山ルートや基本情報を知っておく
快適な富士登山を楽しむために、事前に余裕のある登山計画を立てましょう。
登山ルートによって特徴が異なるため、自分に合ったルートを選択することが必要になります。
富士山の山頂へ続く登山ルートは4つあります。それぞれの登山ルート上の標識やデザイン、色などが統一されており、登山初心者にもわかりやすく整備されています。
事前に自分が利用するルートの色をよく覚えておき、分岐点で間違って別のルートに進んでしまわないように注意しましょう。
【吉田ルート】:黄色
【須走ルート】:赤色
【御殿場ルート】:緑色
【富士宮ルート】:青色
また、登山シーズン中は、7月下旬から人出が増え、特に週末が混雑します。平日にゆとりある登山日程を組むなど、密を避ける計画を立てましょう。
5.富士登山のルールとマナーを知っておく
富士山と山麓の大部分は、世界文化遺産や富士箱根伊豆国立公園、特別名勝及び史跡に指定されています。
特に、五合目より上は自然保護のため厳しい規制がかけられているので注意が必要です。
指定区域内では下記行為が法律で禁止されています。
・動植物の採取
・溶岩や石の持ち出し
・落書き
・テントの設営やたき火
・ペット等の放し飼い
また、美しい富士山を守るために定められた「富士山カントリーコード」というルールも。
「ゴミは絶対に捨てずに、すべて持ち帰る」「トイレなどの公共施設をきれいに使う」など10のルールがあるので、事前に目を通しておきましょう。
富士山カントリーコードの詳細はこちら
さらに、下記の登山マナーも守るようにしましょう。
・登山道は登り道が優先
・無理な追い越しはしない
・落石を起こさない。落石が起きたら大声でまわりに知らせる
・小屋前の休憩は静かに
・鳥獣の巣を見ても近づかない
・怪我人や助けを求めている人がいたら、救助に協力する
『Withコロナ時代の新しい登山マナー(抜粋)』
・発熱、症状があるときは登山を行わない
・山小屋は必ず事前に予約
・宿泊をともなわないご来光目的の夜間登山は行わない
・感染対策グッズを準備
・同行者以外の人とはソーシャルディスタンスを確保
・必要に応じて、マスクや手ぬぐいなどで鼻と口を覆う
・呼吸を荒げないよう、無理のないペースを維持
・体調不良時等は速やかに登山を中止して下山
富士山の山開きはいつ?登山ができる期間

富士山の山開きは毎年、7月頃発表されます。
登山道が開通している期間は、7月上旬から9月の上旬までとなっており、残雪や気候、登山道の状況により開通日や閉鎖日が変更になることもあります。
また、4つの登山ルートによって開通期間がそれぞれ違うので、事前に確認するようにしましょう。
富士登山のベストシーズンは、梅雨が明けた7月下旬から8月中旬といわれています。
梅雨の時期は雨も多く、足元も危険になるため、梅雨明けからの登山がおすすめです。
登山道が閉鎖されると、各ルートとも登山道は通行できませんのでご注意を。
富士登山の4つの登山ルートの特徴
富士登山の4つの登山ルートの特徴をまとめました。

※2021年夏より駐車場の場所が変更になりました。詳細は小山町に確認を。
吉田ルートの特徴

吉田ルートは、山梨県側の富士山の北側から山頂を目指すルートです。富士山に登る登山客の半数以上がこの吉田ルートを利用しています。
登山道と下山道が別になっており、下山道には山小屋がほとんどありませんが、登山道には多数。売店や食堂のほか、休憩室、宿泊施設、コインロッカーやコインシャワーを備えている施設もあります。
施設が整っており、登山道も比較的歩きやすいため、初心者にはおすすめのルートです。
七合目~本八合目の間で夜間登山者による混雑が起きる傾向にあります。
また、下山の際には、須走ルートとの分岐点があるので道の間違いに注意してください。
須走ルートの特徴

須走ルートは、静岡県側(小山町内)の富士山東側から山頂を目指すルートです。
標高の高い位置まで樹林帯が広がっており、登山中の日差しから守られるのが特徴。樹林帯を抜けると、どこからでも「ご来光」や「影富士」が見られます。
樹林帯では見通しが効かないため、夜間や濃霧時は道に迷わないように注意が必要です。
また、五合目の売店や山小屋では登山に必要な装備は販売していないため、必ず事前に用意しておく必要があります(水や簡易な装備は販売)。
本八合目で吉田ルートと合流するため、比較的混雑します。
御殿場ルートの特徴

御殿場ルートは、静岡県側(御殿場市)の富士山南東側から山頂を目指すルートです。
出発地の標高が低く、傾斜は緩やか。火山砂利を下る「大砂走り」のダイナミックな下山を体験できるのが特徴です。
他のルートに比べて山小屋が少ないので注意。トイレや休憩場所も少なく、緊急時に対応できる施設もありません。
このルートは4ルート中最も登山者が少ないため、静かな登山を楽しみたい人にはおすすめですが、目標物が少ないため夜間や濃霧の際には道に迷いやすく、注意が必要です。
富士宮ルートの特徴

富士宮ルートは、静岡県側(富士宮市内)の富士山南側から山頂を目指すルートです。
4つの登山ルートのうち、最も標高の高い位置から出発し、山頂までの距離が短いのが特徴。吉田ルートに次いで登山者が多く、初心者にもおすすめです。
全体的に傾斜が急で、やや岩場が多いので、足元に注意して進みましょう。
登山道と下山道が同じで、ルートを間違えにくい反面、混雑時は譲り合って登山することが必要となります。
富士登山の服装・装備と注意点

登山靴、トレッキングシューズ
富士山では長時間の登山になります。
火山砂利のため、普段履いているようなスニーカーなどの底の浅い靴は穴が空いてしまいます。
足をしっかりサポートしてくれる底が硬いハイカットの登山靴や、トレッキングシューズを用意しましょう。
ハイカットでない場合は、砂利が靴の中に入ってしまいます。古いトレッキングシューズなどは靴底がはがれる可能性があるので、登山前に靴底を必ず確認するようにしましょう。
また、ソックスは厚手のものを用意しましょう。
雨具(セパレートタイプのもの)
富士山の天気は変わりやすく、雨になることも多いです。
雨に濡れると低体温症になり、命の危険もあることから、必ず上下に分かれたセパレートタイプの登山用雨具を用意しましょう。
風も非常に強いので、普段コンビニで買うようなレインコートは風にあおられて破けてしまうことも。
また、傘やポンチョなどは役に立たないことがあります。汗で蒸れにくい、防水透湿素材の雨具が理想です。
防寒着
富士山の山頂は真夏でも0度以下になることがあります。登山口と山頂の気温差は昼間で9度、夜間で13度以上。
雨や風の強い日は、体感温度はもっと下がるため、夏場でも十分な防寒着を用意する必要があります。
ダウンジャケットやフリース、セーターや手袋など、冬物の防寒着を用意しましょう。
登山中は汗をかくため、肌着は速乾性のものを選ぶようにしてください。
ジーンズや、綿素材の肌着などは、一度濡れると乾きにくく、体温を奪う原因となってしまうため避けるようにしましょう。
防止、日焼け止め
登山道には日差しを遮る物がなくなるため、登山中は強い日差しにさらされてしまいます。
熱中症や日焼け防止のため、帽子や日焼け止めも忘れずに準備するようにしてください。
富士登山に必要な持ちもの
以下の表にまとめた持ちものを、30~40リットル程度の背負いやすいザック(防水用のザックカバーとともに)に詰めて持っていきましょう。
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必要なもの
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ライト(ヘッドランプ)
水(1リットル~2リットル)
行動食(手軽に食べられるお菓子など)
ゴミ袋(ゴミの持ち帰り用)
お金(小銭、現金)
地図(登山地図、コンパスなど)
ヘルメット
新型コロナウイルス感染症対策グッズ -
あると便利なもの
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サングラス、日焼け止め
携帯電話
医薬品、健康保険証
タオル
防水バッグ
携帯トイレ
【必要】ライト(ヘッドランプ)
夜間まで行動する予定がない場合でも、ヘッドランプは必ず持参しましょう。
登山道の渋滞や体調の悪化により、予定よりも下山が遅れる可能性もあります。
日没を過ぎると急速に暗くなってしまうため、足下が見えず歩行することができなくなります。また、急な岩場では両手を岩について登ることもあるため、両手が自由になるヘッドランプは必需品です。
【必要】水(1リットル~2リットル)
高山病を防ぐため、登山中はこまめに水分を補給することが大切です。
富士山には水場や水道はありません。飲料水は各自で持参するか、山小屋で購入しましょう。
【必要】行動食(手軽に食べられるお菓子など)
チョコレートなどのカロリーが高いものがいいでしょう。
疲れたときは、甘いものが効果的です。汗をたくさんかくので、塩分を補給できるものも忘れずに。
【必要】ゴミ袋(ゴミの持ち帰り用)
必ずゴミ袋を用意し、自分で出したゴミは自分で持ち帰るようにしましょう。
【必要】お金(小銭、現金)
トイレのチップ用に小銭(100円玉)の用意が必要です。
また、ほとんどの山小屋では支払いにカードは使えません。宿泊費、飲料水などの買い物のために現金の用意をしましょう。
【必要】地図(登山地図、コンパスなど)
登山道は一本道ではありません。道に迷わないよう、地図で現在地を把握しながら歩くようにしましょう。視界が悪い際などはコンパスが有効です。
【必要】ヘルメット
噴火対策や、落石・転倒から身を守るために必要です。
【必要】新型コロナウイルス感染症対策グッズ
マスク(取り替えることもあるので多めに)はもちろん、携帯用の手指消毒剤、ゴミ入れに使うエチケット袋などを持参しましょう。
【便利】サングラス
登山道では強い日差しにさらされます。
帽子や日焼け止めなどはマストアイテムですが、紫外線カットのサングラスがあるとより便利です。
【便利】携帯電話
万が一、救助が必要になった時などに役立ちます。
予備のバッテリーも持参しておきましょう。使わないときは電源を切っておくとバッテリーの消耗を防げます。
【便利】医薬品、健康保険証
転倒による外傷や捻挫が多いため、万が一の怪我のために応急手当キットを持参しましょう。
頭痛薬、腹痛薬など普段飲み慣れている薬も併せて用意しましょう。
【便利】タオル
汗をぬぐう他に、緊急時には包帯や三角巾の代用にもなり大変便利です。
【便利】防水バッグ
濡れると困るもの(衣類やカメラ、携帯など)を入れるのに役立ちます。
【便利】携帯トイレ
例年7月1日~9日は山頂トイレ未開設期間のため、必要に応じて用意しておきましょう。
事前に知っておきたいことQ&A

最後に、富士登山初心者が知っておきたいことをQ&A形式でまとめました!
携帯はつながるの?
夏の登山シーズン中、主な携帯電話会社のアンテナが設置されるため、携帯電話は繋がりやすくなります。
トイレはどこで行けるの?
それぞれの登山口(五合目)と山頂には公衆トイレがあります。
※静岡県側のルート(富士宮・須走・御殿場)未開設日(7月1~9日)には、山頂トイレは使用できません。
その他は、山小屋のトイレが利用できますが、登山ルートや登り・下りで異なります。トイレの数が少ないルートがあるため、事前に自分が登山するルートは確認しておきましょう。
山頂と吉田ルート下山道七合目の公衆トイレは非常に混雑します。
不眠不休で歩き続けるの?
弾丸登山や日帰り登山は、体力的に厳しいので高山病にかかる可能性が高くなります。
山小屋に1泊以上宿泊するといった余裕のあるスケジュールで登山を楽しみましょう。
事前に体力作りは必要?
富士登山では長時間歩くことになるため、普段以上に下半身に負荷がかかります。
登山に必要な筋力をつけるため、ウォーキングやスクワットをして足腰を鍛えるのもおすすめです。
実際に山に行って山道を歩くのも良いトレーニングになります。例えば高尾山のような比較的登りやすい山から実際に登って経験を積むのも良いでしょう。
トータル費用はいくらかかるの?
ざっくりした目安ですが、下記を参考にしてください。
【マイカーの場合:計51000円】
・駐車場代:1000円
・宿泊費:10000円(1泊)
・飲食代:7000円
・トイレ代:1000円
・登山道具代:32000円
【マイカー規制時の場合:計54560円】
・電車代(新宿駅→河口湖駅):2560円
・バス代(河口湖→以後梅登山口):2000円
・宿泊費:10000円(1泊)
・飲食代:7000円
・トイレ代:1000円
・登山道具代:32000円
【バスツアー】
東京からのバスツアーなら6000円~30000円ほどで用意されています。
日帰り、1泊、2泊などのさまざまなプランがあります。
電車で行けるの?
JR中央線から富士急行線を経由して、ふもとの富士吉田市や富士河口湖町まで行くことができます。
駅から登山口までは路線バスも運行されています。
飲食物はどれくらい持参したらいいの?
荷物にならない程度を用意しましょう。
チョコレートやクッキーなど、雨の場合でも手軽に食べることができて軽量のものが良いでしょう。
ちなみに、カップ麺やうどんなどを提供している山小屋もありますが、夜間は購入できません。
山小屋って予約した方がいいの?
満員の場合もあるため、予約しておきましょう。特に週末の山小屋はどこも混むので、必ず事前に予約を。
山小屋の宿泊費用は、素泊まりで約6500円~9500円ほどです。
雨が降って来たらどうするの?
登山道が濡れて滑りやすくなり、転倒してしまう危険性が増します。なるべく歩幅を小さく、つま先から足裏全体を使って慎重に歩くようにしましょう。
また、天候が不安定だと見通しが悪い中を歩かないといけないこともあります。
遭難のリスクも高まるので、登山初心者は近くの山小屋で雨宿りするようにしましょう。
怪我をしたり高山病になったりしたらどうすればいいの?
吉田ルートの七合目と八合目、富士宮ルートの八合目には、それぞれ救護所があり、登山シーズン中の一定期間、医師が常駐しています。
自力で歩けない場合は、近くの山小屋に連絡するか、110番または119番に救助要請しましょう。
登山道の途中の場合は、近くに標識があれば、標識の番号を伝えると場所がわかります。
さいごに:富士山保全協力金に関して
山梨・静岡両県では、美しい富士山を後世へ引き継ぐために、「富士山保全協力金」に対する協力をお願いしています。五合目以上における環境保全、登山者の安全対策、富士山に関わる情報提供等の事業に活用しています。
・金額/基本1000円
・支払方法/現地支払・インターネット(山梨県のみ)・コンビニエンスストアでの事前支払
・実施期間/原則登山期間中
・対象者/五合目から先に立ち入る来訪者
【取材協力】
静岡県スポーツ・文化観光部 富士山世界遺産課
山梨県観光文化部 世界遺産富士山課
※この記事は2023年7月12日時点での情報です。休業日や営業時間など掲載情報は変更の可能性があります。日々状況が変化しておりますので、事前に各施設・店舗へ最新の情報をお問い合わせください。
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