寒い冬からあたたかい春風に乗って、美味しい春の魚が旬を迎えます。それぞれの魚の旬の時期や特徴は?おいしい食べ方は?季節の訪れを知らせ「春告げ魚」とも呼ばれる春の魚たち。
今回は、日本全国の漁業に詳しい専門家たちに魚の産地や特徴、美味しさについて伺いました。
※この記事は2021年12月8日時点での情報です。
カツオ(鰹)

旬の時期/4月~5月
主な産地/静岡県、東京都、宮城県
魚の特徴/背中は暗い青色、腹は銀白色。体の下にある7~8本のしま模様が有名だが、生きている間ははっきり出ておらず、捕られてから模様が濃く現れる。
日本海の黒潮海流に乗って北上する、春の「初カツオ」は、さっぱりとした味わいです。赤身が多いので「刺身」や、表面を焼いた「たたき」でよく食べられます。
8月下旬~9月に獲れる脂の乗った「戻りガツオ」も美味なので、時期による味の違いを楽しむのもいいですね。また、カツオはかつお節やなまり節、つくだ煮などの加工品として広く普及し、内臓も「酒盗」と呼ばれる珍味として知られています。
カツオで有名なのが、静岡県の「焼津のかつお」、宮城県石巻港の独自ブランド「金華伊達かつお」です。洋上で瞬間凍結して新鮮なまま水揚げされます。
マダイ(真鯛)

旬の時期/3月~5月
主な産地/福岡県、長崎県、愛媛県
魚の特徴/見た目にも華がある魚の王様。体は赤く、体の下側は淡い色づきで、尾びれがピンっととがり、端の色が黒っぽいのが特徴。
タイは、七福神の恵比寿様が釣っていることから「めでたい」魚であると言われています。春先に漁獲されるマダイは、桜の季節に漁獲されることから、「桜鯛(さくらだい)」ともよばれ親しまれています。
天然鯛は高級魚として今も人気が高い一方で、養殖の研究も盛んにされていて、自然の栄養素を使った餌や海面に角型の網を浮かべて行う養殖法などで、脂のくどくないサッパリとした味のタイを通年で入手できるようになりました。くせのない白身はうまみも強く、刺身や鯛めしなど、どんな料理でも合いますよ。
「長崎の天然真鯛」や三重県の「伊勢まだい」、愛媛県の「愛鯛」など、さまざまなマダイが日本では獲れるので、産地で味の違いを楽しむのもいいですね。
ブリ(鰤)

旬の時期/3月
主な産地/長崎県、千葉県、島根県
魚の特徴/胸びれと腹びれの長さがだいたい同じで、上あごの端は角ばった形。腹は白く、目のわきから黄色い線が出ている。
青魚の代表格で、大きなものは10kg以上になります。一般的にブリの旬は冬ですが、四国や九州では春先に大量に水揚げがあり、3月のお彼岸の頃に水揚げが最盛期を迎えることから「彼岸ブリ」と呼ばれ親しまれています。
関西や北陸地方では塩に漬け込んだ「塩ブリ」や、カブとブリを発酵熟成させた「かぶらずし」が祝い事には欠かせません。また近畿、中国、九州地方ではお雑煮の具にも使われます。刺身や、焼き魚、ブリ大根などの煮物など、どんな調理法でもおいしいのが、ブリのよいところです。
長崎県、高知県、三重県などで「彼岸ブリ」が獲れるほか、ブランド魚では高知県の「柚子鰤王」、大分県の「かぼすブリ」などが知られています。
マアジ(真鯵)

旬の時期/5月~8月
主な産地/長崎県、島根県、千葉県
魚の特徴/細長く押しつぶされたような形。えらから尾びれにかけて、とげのようなウロコがあり、「ぜいご」と呼ばれる。調理の際は、きちんと取り除くこと。
名前の由来は「味がよい」からという説もあるアジは、年間をとおして出回りますが春から夏にかけてが旬です。刺身やたたき、たたきに味噌や薬味を混ぜ込んだなめろうのほか、小アジを丸ごとから揚げにしてマリネにした南蛮漬けもおいしい食べ方です。
マアジは通常、成魚になると浅瀬から沖合に出て回遊します。色は黒っぽく、スーパーマーケットなどにも多く出回っています。一方で、成魚になっても回遊せずに浅瀬に住み着いたあじは、豊富なえさを食べて肉厚で、色も黄色みをおびていることから「黄アジ」と呼ばれます。長崎県の「ごんあじ」「野母(のも)んあじ」、山口県の「瀬付きあじ」などは「黄アジ」で、ブランド魚として知られています。
シラス(白子)

旬の時期/3月下旬~6月
主な産地/兵庫県、愛知県、静岡県
魚の特徴/体長15~30mmのもの。体の色は無色透明だが、ゆでると白くなる。
マイワシやカタクチイワシの稚魚で、小魚を丸ごと食べられるので栄養価が高いです。新鮮なものは生でも食べられますし、サッとゆでたものは「釜揚げシラス」、それを干したものは乾燥の度合いによって「シラス干し」や「ちりめんじゃこ」と呼ばれます。
大根おろしを添えて醤油やポン酢をかけて食べたり、あつあつのご飯に載せたり、シラスのペペロンチーノなどパスタ料理にも使えます。くせのない味なので、料理の主役にも脇役にもなれる魚です。
静岡県の「田子の浦しらす」や、神奈川県の「湘南しらす」など、獲れる場所の近くでは鮮度が重要な生シラスや釜揚げシラスが提供されています。
ヒラメ(鮃)

旬の時期/4月~7月
主な産地/北海道、青森県、宮城県
魚の特徴/砂底か海底近くに住むヒラメは他の魚とちょっと違った、平べったい形をしている。「左ヒラメに右カレイ」と言うように、目が左についているものがヒラメ。
ヒラメの特徴は何と言ってもその色。海底の色に合わせて体の色を変えることができます。卵からふ化したときは、ふつうの魚と同じ左右対称の形をしていますが、成長につれて右目が左に寄り、目のない右側を下にして海底に住みつきます。
北国の冷たい海で育ったヒラメは白身魚特有の繊細さと甘味があります。「えんがわ」と呼ばれる、背びれとしりびれの周囲にある部位は刺身や寿司ネタに使われ、脂がのり濃いうまみがにじみ出ます。獲れたてより、しめてから時間が経つとうまみが増します。
青森県の「青天ひらめ」や長崎県の「平戸ひらめおがみ」が天然のヒラメブランドとして有名です。
ニシン(鰊)

旬の時期/3月~6月
主な産地/北海道、青森県、岩手県
魚の特徴/体全体が銀色に輝き、背の部分が青色になっている。薄く透明なウロコがあるが、非常に取れやすく、ほとんど残らない場合もある。
ニシンの漁は、沿岸部に産卵に来た時に行われます。ニシンは傷みやすいので、鮮魚で食べられる機会は産地以外であまりありません。二つ割にして素干しにした「身欠きニシン」やニシンの卵巣「かずのこ」などの方がなじみのある人が多いかもしれません。
「身欠きニシン」は、甘露煮や麹で漬け込むニシン漬けなどの原料になります。甘露煮を昆布巻きにしたものはお正月のおせちとして並ぶことも。京都ではあたたかいそばに乗せる「にしんそば」が有名です。
寿司ネタや珍味として出る「子持ち昆布」も、ニシンが昆布に卵を産みつけたもの。ニシンは魚自身も卵もおいしい魚と言えますね。
サクラマス(桜鱒)

旬の時期/3月~5月
主な産地/北海道、岩手県、新潟県、青森県
魚の特徴/ヤマメと同種。渓流などの川にとどまるものをヤマメ、外海に出て1年ほど過ごすものをサクラマスという。
桜の花が咲く頃に漁獲されること、成熟した身の色は桜色であることから「サクラマス」と呼ばれるようになったと言われています。体長60㎝ほどで身は引き締まり、2kg以上のものは脂乗りがよいです。
甘みのある脂とあっさりとした味わいは、マス類の魚の中でも一番を争うおいしさです。塩焼きで食べることが多いですが、ルイベという冷凍のまま食べる刺身や、ムニエル、カルパッチョにも向いています。
「青森天然サクラマス」など、北の海で獲れる天然のサクラマスは近年減少傾向。新潟県では海面での養殖が行われ「佐渡満開さくらます」としてブランド化しています。
サワラ(鰆・狭腹)

旬の時期/5月~6月(春漁・関西)
主な産地/福井県、石川県、京都府
魚の特徴/体長1m以上で、細長く平べったい形をしている。体の上部にある灰色の点々模様がはっきり出ているほど新鮮。
漢字で「狭腹」と書くこともあるのは、体がとても細長く腹部も細いことから。旬は春と冬があり、地域によって違います。関西では産卵のために瀬戸内海に集まったサワラが獲られるので、春が旬。漢字も「鰆」が当てられます。一方で、関東では外海を回遊している時に獲られるので、冬が旬の「寒ザワラ」と呼ばれます。
身は柔らかく、他の魚と違い尾びれに近い体の後ろ部分の方がおいしいのが特徴です。西京みそに漬けた西京焼きや粕漬、ムニエルなど幅広い料理に向きます。鮮度の良いものは刺身や寿司もおいしいです。岡山県の「朝干(あさび)のさわら」、香川県の「讃岐のさわら」などは、春のサワラとして旬の味を楽しめます。
ウスメバル(ウス鮴・薄目張)

旬の時期/4月~6月
主な産地/青森県、秋田県、山形県
魚の特徴/全長35cmほどで、全体に赤い色をしている。体の上部に5~6本の不定形の模様があり、他のメバル類と見分けられる。
大きな目が張り出しているので「目張る(めばる)」と呼ばれています。メバルにはさまざまな色があり黒、白、茶色、赤色などがあります。赤っぽいのがウスメバルになります。
ウスメバルの体長は35㎝ほどになり、白身でクセが無く、身のしまりがあり、淡白で上品な味わいです。特に煮付けがおいしく、塩焼きや薄造りのお刺身で食べることもできます。小骨が少なく、身離れがよいので、お子さんやお年を召された方にも食べやすい魚です。
青森県の津軽海峡で獲れるウスメバルは「津軽海峡メバル」、石川県では「輪島の柳はちめ」として地元の人から愛されています。
サヨリ(鱵・針魚)

旬の時期/3月~5月
主な産地/北海道から九州までの沿岸部
魚の特徴/体全体が細くとがった形で青みがかった銀色。下あごは長く伸びていて先端は朱色なのが特徴。背びれ、腹びれ、しりびれが体の後ろ側にある。
「針魚」とも漢字で書くように、針のように体が細くとがった形をしています。腹を開き内臓を取り出すと、真っ黒な膜で覆われています。外見は美しい一方で、腹は黒いことから、裏表のある人を「サヨリのような人」「サヨリのように腹黒い」と言うようになったのだとか。
とはいえ、味は上品でくせがなく、刺身のこぶ締めやお寿司のネタやてんぷら、干物などおいしい食べ方がたくさんあります。
サヨリは沿岸部の幅広い場所で獲れ、江戸前寿司には欠かせないネタ。内臓から劣化が急速に進むので、一尾まるごと買った場合はすぐに黒い内臓部分の下処理が必要です。鮮度が命の魚なので、見かけたら食べてみることをおすすめします。
シロウオ(素魚)

旬の時期/4月~5月
主な産地/福岡県、愛媛県、青森県
魚の特徴/「シロウオ」は5cm程度、鱗がなく透き通ったあめ色で、頭の先が丸まっている。似た名前だが別の魚なのが「シラウオ(白魚)」で、色は無色透明。頭がとがっている。
シロウオはハゼの仲間で5cmほどの体長です。早春の味覚であるシロウオは、とても繊細な魚で死んだ瞬間から鮮度が落ちていきます。かつては産地のみで食べられていきましたが、現在は技術が発達して生きた状態でビニールパックに入れられて売られています。
ただし、日持ちするわけではないので、入手したらその日のうちに食べてしまうのがおすすめです。酢じょうゆや黄身じょうゆに生きたシロウオを入れて食べる踊り食いが有名で、その他、卵とじや天ぷら、お吸い物などでもおいしくいただけます。
おもな産地は九州、山陰、北陸地方ですが、青森県でも県民に愛される珍味としてシロウオが挙げられています。
春の魚について教えてもらったのは
■取材協力/青森県漁業協同組合連合会
青森県の漁業を通じてよりよい地域社会を築くことを目的として、青く美しい海と豊かな海の幸を次の世代まで受け継ぐための活動を展開しています。素材の味を活かした青森ほたてレシピや子どもと楽しめるお魚クイズやお魚のことわざなど楽しいトピックもあります。
■取材協力/焼津さかなセンター
静岡県焼津の産地卸売場として、カツオ、マグロの鮮魚をはじめ、サクラエビやシラス、干物等の加工品などの品ぞろえ豊富な店舗が多数あります。海の幸を味わえる飲食店もあるのでグルメも堪能できます。
また、季節に合わせて「海老&しらす祭り」や「焼津めしフェスタ」「寿司食べ放題」なども開催予定です。
■取材協力/三重県漁業協同組合連合会(みえぎょれん)
三重県の海を愛する心を育み、漁業に対する理解と認識を高めています。漁業後継者の育成強化を図ることを目的として三重県海の子作品展や、三重県産の水産物を使った新たな創作料理と、そのレシピの普及を目的におさかな料理コンクールを開催しています。
■取材協力/長崎県漁業協同組合連合会
長崎県の海の特徴やアピールポイント、行われる漁法や漁師になる方法の紹介をしています。長崎県で獲れる魚は300種以上、天然魚やその加工品を紹介する直売所や飲食店・ECショップの運営もしています。また、生産量日本一の煮干しやいりこの普及に努めています。
まとめ
春の魚のおいしい食べ方や、産地、ご当地ブランド魚をご紹介しました。旬の魚は、新鮮で栄養価も高く、なにより味が濃いものです。ぜひ暮らしの中や、お出かけ先での食事をとおして、いろんな食べ方で楽しんでみてくださいね。
※新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、お住まいやお出かけされる都道府県の要請をご確認の上、感染拡大防止に充分ご配慮いただくようお願いいたします。
参考文献
日本全国お魚事典/山田吉彦 海竜社(2012/11/1)
旬の魚図鑑/坂本一男 主婦の友社(2007/3/1)
旬を味わう魚の事典/坂本一男 ナツメ社(2008/9/22)
参考データ
農林水産省_海面漁業生産統計調査_令和2年漁業・養殖業生産統計
いとうもとみ
フリーランスWEBライター。テレビやシネコンには決して出てこない音楽や映画を楽しみながら過ごすひとりの時間が人生で一番重要。旅行のときは、ジップラインなどのアトラクションやハイキングなど自然とふれ合えるスポットと温泉の組み合わせが大好き。