人気の温泉地は宿も豊富だけにどこに泊まるか悩ましいもの。上質な温泉宿で贅沢な滞在を楽しみたいと考えている場合はなおさらです。
そこで、今回は温泉の識者や、注目の温泉宿の人のお気に入り宿など、温泉宿に造詣の深い旅のプロたちが注目している温泉宿を教えてもらいました。
贅沢な温泉旅の滞在先選びの参考にしてください。
【大分県・別府市/別府温泉郷】山荘 神和苑
温泉エッセイスト 山崎まゆみさんのおすすめ宿
「温泉もおもてなしもよく、別府のなかでも特に大人が満足できる宿。自信をもって知人にすすめています。」

圧倒的な湧出量と源泉数を誇る別府温泉郷。別府八湯とも呼ばれる温泉郷のうち、無数の源泉口から白い湯煙が立ち上る鉄輪(かんなわ)温泉は、最も湯の街風情を感じる温泉場だ。温泉湧出地をめぐる「地獄めぐり」や温泉蒸気で食材を蒸す「地獄蒸し」など、古くから湯治客に愛された文化が伝わっている。この地に泊まるならと、温泉エッセイスト・山崎まゆみさんが挙げたのが「山荘 神和苑」だ。
まず驚いたのはロビーからも見える能楽堂。他にも2年の歳月をかけ全国から集めた天然木材を使った回廊や茅葺き屋根の茶室など、本物を知る大人の目に適う建物群が約1万4000坪の敷地に点在していた。


「スカイブルーにも、少し沈んだブルーにも、色を変えるお湯は見ていて飽きません。」

3世代でも泊まれるようにと広い造りをメインにした客室、別府の街並みを見渡すバー、オールハンドの施術が心地よいスパトリートメント…、と宿の魅力は多岐にわたるが、山崎さんが特に魅了されたのはやはり温泉。

「別府でもこれほど神秘的なブルーの温泉は貴重。朝夕と時間ごとにも色を変え、 何度入っても楽しめます。保湿成分のメタケイ酸と保温によいナトリウム成分が豊富で、冬も全身がぽかぽかに。深い眠りにつけますよ。」

広々とした大浴場に加え、全客室にも温泉風呂が備わり、いずれも自家源泉100%掛け流し。鉄輪温泉伝統の温泉蒸気が満ちた「蒸し湯」や女性専用「泥湯」を楽しむことができ、「宿から出なくても別府らしさが感じられ、連泊しても充実した時間が過ごせるでしょう。」と山崎さん。



もう一点、「温泉宿ですと和食が多いけれど、こちらは和懐石に加え鉄板焼きも選べるのが嬉しいポイントです。」と教えてくれた。





0977-66-2111
大分県別府市鉄輪345
1泊2食付き2万4750円~(入湯税別途250円~)
大分道別府ICより車で5分
57台
「山荘 神和苑」の詳細はこちら
【岐阜県・高山市/奥飛騨温泉郷】隠庵ひだ路
漫画家・文筆家・画家 ヤマザキマリさんのおすすめ宿
「古民家の佇まいと現代的要素を取り込んだ、センスと配慮の行き届いた宿。スタッフとの距離感もちょうどよい。」

『テルマエ・ロマエ』の作者としても知られるヤマザキマリさんが、イタリアから来日した夫と共に宿泊したのがこちら。北アルプスの山懐に抱かれた奥飛騨温泉郷のなかでも、ひなびた山里風情が残る福地(ふくじ)温泉に佇んでいる。


黒板塀に囲まれた宿は飛騨の古民家造りで、太い梁が頭上にめぐるロビーは囲炉裏を切った小上がりがしつらえられた和みの空間。古きよき温かみが心地いいことに加え、館内の一角や一部客室をワーケーションにも対応した造りにリノベーションするなど、新しい風を取り込んでいる点も宿の魅力を高めている。

囲炉裏テーブルを据えた半個室でいただく夕食は、彩り豊かな前菜から囲炉裏で炙る五平餅、飛騨牛の溶岩プレート焼きまで、海のものは使わず山の幸尽くし。「お米のおいしさにも心安らぐ」とヤマザキさんが話す、おひつ入りごはんに至るまで素朴ながらしみじみと味わい深い。

全12室に備わる客室露天風呂もいいが川沿いにある露天風呂にも足をのばしたい。渓流の川音が絶えず響き、冬は白銀に染まる山並みを月灯りが照らす夜の湯浴み…。格別な時間が流れていく。


0578-89-2462
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地687
1泊2食付き2万7000円~(入湯税別途150円)
長野道松本ICより車で1時間15分
12台
「隠庵びた路」の詳細はこちら
【愛媛県・松山市/道後温泉】大和屋別荘
株式会社自遊人 代表取締役 岩佐十良さんのおすすめ宿
「玄関から入った瞬間に別世界観があり、温泉街にありながらも館内が非常に静かで上質。文化の香る道後温泉らしい宿。」

蒸気機関車を模した路面電車が停まる道後温泉駅から商店街を抜け、国の重要文化財でもある外湯・道後温泉本館に至る一帯は、昼も夜も多くの人がそぞろ歩いている。そんな道後温泉の中心地にあるもう一つの外湯・椿の湯の裏手に回り、椿坂を上った先に「大和屋別荘」は佇んでいる。
玄関を入ると季節の屏風と掛け軸。控えめな照明とほのかに漂うお香が彩る、静ひつな空間。街の賑わいも今は遠く、自らも温泉宿を手掛ける岩佐十良さんが「玄関を入った瞬間に別世界」と評した通りの印象だ。



総檜数寄屋造りの宿のそこかしこには道後にゆかりある文人の書画が飾られている。 客室に向かいつつ説明してくれたのは、最近では珍しい部屋付きの客室係。日本らしい美意識を伝える正統派日本旅館と言える。





道後の名湯は大浴場や客室で楽しめるが、歩いて数分の外湯や、姉妹館・大和屋本店の浴場を訪れるのもいいだろう。夕食で伊予の幸を堪能した後、湯かごを手に湯めぐりへ。宿に戻ると客室には布団が敷かれ、卓上には夜食も。さりげなくも気の利いた、もてなしが心地よい。


089-931-7771
愛媛県松山市道後鷺谷町2-27
1泊2食付き3万5000円~(入湯税別途150円)
松山道松山ICより車で25分
19台(1泊1000円、要予約)
「大和屋別荘」の詳細はこちら
【神奈川県・箱根町/箱根温泉】強羅花扇 円かの杜
AllAbout旅館ガイド 山田祐子さんさんのおすすめ宿
「箱根では珍しく、眺望の抜けた客室露天風呂。敷地内に2本の源泉井戸があり、新鮮な温泉に浸かれるのも魅力。」

関東屈指の人気温泉地・箱根には泉質多彩な17もの湯場があり、温泉宿も豊富。しかし外からの視線を気にせずに済む、開放的な露天風呂は案外と少ない。そんな箱根でも大自然の眺望が独占できる希少な宿として、観光・宿泊業の経営支援を行う山田祐子さんが教えてくれたのがこちら。
「客室のウッドデッキに眺望のいい露天風呂があり、朝日を浴びて入る爽快感がたまりません。」



早川支流の谷へと続く深い森が宿の背後を覆う、外界から遮断された環境。ゆえに大開口を設けた客室露天風呂が実現したわけだ。眺めや造りは客室ごとに異なるが、全20室が温泉露天風呂付き。湯船には敷地内から湧く塩化物泉の温泉が掛け流される。
さらに、ロビー階から森へと下って行く大浴場では異なる泉質の温泉に入浴できる。客室からロビー、大浴場へと回遊する間、常に木の気配を感じることにふと気づく。

神代ケヤキの一枚板を据えた受付カウンターや柱、梁など至るところに全国の銘木が惜しみなく使われ、家具調度品は飛騨の匠の手によるものだという。森を望む入浴中も館内で寛ぐ時も、森林浴をしているような安らぎが包み込んでくれる宿だ。





0460-82-4100
神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320-862
1泊2食付き4万円~(入湯税別途150円)
西湘バイパス箱根口ICより車で30分
13台
「強羅花扇 円かの杜」の詳細はこちら
【佐賀県・武雄市/武雄温泉】御宿 竹林亭
「山荘 神和苑」 総支配人・野口広之さんのおすすめ宿
約15万坪の庭園と過ごす庭屋一如の精神がここに。

「自然と四季、建物が一体となった空間を分かち合いたい」“庭屋一如(ていおくいちにょ)”とは宿が掲げるコンセプト。自然を感じる宿は数あれど、それを人の手によりさらに高めていくには、緻密な計算と自然に寄り添う想像力が必要だろう。

江戸時代に佐賀藩武雄領主の鍋島家が造った、壮大な池泉回遊式庭園・御船山楽園。現在では国指定記念物となっている。約15万坪の敷地に約450坪の宿泊棟、そこにわずか11室だけの特別な空間が創り出された。すべての客室はそれぞれの“庭屋一如”を体現する、異なる造りになっている。

「旅館の視察のために訪れた宿の一つです。庭園がライトアップされていて、とても幻想的だったのが印象深い。敷地も広く、専用散策路があるなど庭園を愉しむた
めの工夫が随所に見られ、勉強になりました。四季を愉しめるのを感じ、また行きたいと思いました」(野口さん)

御船山を借景に浸かる温泉露天風呂、自然を自然のままに感じる月見台、庭園美を絵画のように鑑賞する大窓、風景の光と影を活かす演出…。自然と建物の境界を感じない、まさに一体となる時間を過ごせる。



客室はもちろん、打ち水をされた三和土や畳敷きの回廊、上質な調度品や器など、随所に気品のある日本の美を感じさせてくれる空間。肌になじむ武雄温泉の優しい湯とともに特別なひと時を。


0954-23-0210
佐賀県武雄市武雄町大字武雄4100
1泊2食付き5万4450円~(入湯税別途150円)
長崎道武雄北方ICより車で10分
30台
「御宿 竹林亭」の詳細はこちら
【香川県・小豆島町/小豆島里枝温泉】島宿真里
「隠庵ひだ路」若旦那・山腰哲也さんのおすすめ宿
古き佳きものを使い継ぐ物語のある島の宿。

瀬戸内海に浮かぶ小豆島。船でしか渡れない離島ながら、人々が足しげく通う宿がある。部屋の名前をつなげると現れる「ひしお(醤)でもてなすさと」の通り、特産である醤油をはじめ、のんびりと優しい島の魅力で迎えてくれる「島宿真里」。

先代の民宿から受け継いだ、昭和初期に建てられた母屋は食事処として、また蔵は離れ客室として現役で活躍中。ともに国の登録有形文化財に指定されている。



全室に温泉風呂が付いた客室も、古民家の建具や古い瓦、醤油蔵の古材などを使い、物語であふれている。加えて香川ゆかりの作家が手掛ける照明や家具を配置し、新旧がとけ込む独特の空間美を創り上げる。


「泊まるのは当館と同様の小規模な宿と決めています。真里さんもその一つで、常に進化されているお宿。全客室の造りが異なり、照明一つにしてもありがちではなく、既成概念にとらわれない独創的な美しさがあります。食事も地元の醤油やオリーブが使われ、小豆島らしさを体感できます」(山腰さん)

建築と並んで評判高いのが島の「醤油会席」。醤を使った自家製調味料をアクセントに、島の魚介や野菜の魅力を最大限に引き出す構成。なかでも新鮮な瀬戸内の地魚を4種類の島醤油で楽しむ趣向はここならでは。食材は長く信頼関係を結ぶ生産者から、可能な限り直接分けてもらうことで高品質で希少なものを提供する。おいしい島の物語も、ぜひ。



【大分県・由布市/湯平温泉】癒しの宿 鷹勝
「大和屋別荘」若旦那・奥村勇太さんのおすすめ宿
さりげなく、心地よくされど圧倒的な総合力。

湯布院から車で25分、石畳が美しい山あいの湯平温泉にその宿はある。じゃらんnetのクチコミでは夕食、接客・サービスともに常に高評価をキープ。華美ではない、一見普通の温泉旅館だがその秘密はどこにあるのか。


まず客室は大正時代に建てられた本館を大切に改装した6つの和室とそれぞれ趣向を凝らした8つの離れ。ペットと泊まれる部屋もあり、清掃の徹底や畳敷きの風呂の配置など細やかな心遣いが見てとれる。


「お部屋の飲み物は無料でいくらでも持ってきていただけて、もちろんお食事も美味。別府温泉よりさらに奥、という決して好立地ではありませんが、旅館から一歩も出ずに楽しめる宿でした。大浴場も風情があり、サウナまで付いていて思いがけず嬉しかったことを記憶しております」(奥村さん)


そして夕食には九州の山海の幸をふんだんに使用。実はここ、博多や銀座に会員制寿司割烹などを展開する「鷹勝」と経営母体が同じ。3つある大型生け簀にはその日に出す魚のみを泳がせる鮮度第一主義で、造りは活魚の盛り合わせとなる。


「不便さもあるからこそ、お客様からの発信には常々アンテナを張っています」と女将。ゲストの要望に瞬時に対応できるよう、スタッフは全員予約から清掃、温泉、料理までオールラウンドな知識と経験を重ねる。一つひとつのさりげない、けれど丁寧な積み重ねがゲストに伝わっているのだろう。
0977-86-2828
大分県由布市湯布院町湯平791
1泊2食付き2万円~(入湯税別途150円)
大分道湯布院ICより車で25分
15台
「癒しの宿 鷹勝」の詳細はこちら
【滋賀県・長浜市/尾上温泉】旅館 紅鮎
「強羅花扇 円かの杜」専務取締役・飯山正樹さんのおすすめ宿
奥びわ湖の優しい時間に「ただいま」と言える場所。

「おかえりなさいませ。」なんと美しく温かい日本語だろうか。宿に到着するとまずこの言葉で迎えられる。ロビーから見渡す穏やかなびわ湖の風景とともに、日常と旅の疲れが解されてゆく。
滋賀北部・奥びわ湖は神秘的な竹生島が浮かび、湖上で水鳥が遊ぶ、湖畔の原風景が広がる場所。そんなゆったりと過ぎる時間に、ともに寄り添っってくれる宿でもある。リピーターも多く、皆もう一つの我が家へ帰ったように寛いでいる。


畳敷きの廊下を進み客室へ。全客室にびわ湖を望む温泉半露天風呂を備え、夕日を眺めながら、また朝の鳥のさえずりを聞きながら、思い思いの湯浴みを楽しめる。何度も泊まりたくなる理由は食事にも。近江牛、鴨すき、湖北の幸を活かした会席など、常時24種類を用意。旅のスタイルや気分で選べ、次回はどれにしようかとつい考えてしまう。


「3 回宿泊しております。びわ湖に沈む夕日や水鳥を眺めながら入る客室風呂は絶品。ここだけ時間がゆっくり進んでいるようです。また、お料理も鮎づくし、近江牛づくし、鴨すき、自家製鮒ずし…と、季節ごとの食材や郷土料理もたくさんあり、毎回楽しませていただいております」(飯山さん)



リピーターはできる限り前回と同様の好みを反映した状態で迎える心遣いは、本当に「帰ってきたのだな」と思わせてくれる。ハイクラスだけど肩ひじを張らずに帰れる場所がここにある。
0749-79-0315
滋賀県長浜市湖北町尾上312
1泊2食付き2万6400円~(入湯税別途150円)
北陸道木之本ICより車で10分
16台
「旅館 紅鮎」の詳細はこちら
教えてくれた人まとめ
●温泉エッセイスト 山崎まゆみさん
日本と世界32カ国の温泉を取材し、日本の温泉文化を国内外に発信。国や地方自治体の観光政策有識者会議にも多数参画。跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学、観光取材学)も務める。著書に『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)など。
●漫画家・文筆家・画家 ヤマザキマリさん
フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機に世界各国で生活。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受章。
●株式会社自遊人 代表取締役 岩佐十良さん
大学在学中に会社を創業し、のちに編集者に転身。2000年、雑誌『自遊人』創刊。2014年、新潟大沢山温泉にオープンした宿「里山十帖」では、総合ディレクションを担当し「グッドデザイン賞BEST100」を受賞。2017年、『Forbes JAPAN』の「地方を変えるキーマン55人」に選出される。多摩美術大学客員教授。
●AllAbout旅館ガイド 山田祐子さん
ホテリエを経て、宿泊業や国内旅行に関する調査・研究、地域誘客支援、人材育成を行うツーリズムワイズラボを設立。AllAbout旅館ガイドの他、大学にて観光文化論、ホテル・マネジメント論、ホスピタリティ論などの講師も務める。専門分野は小規模の宿泊施設。
●「山荘 神和苑」 総支配人・野口広之さん
温泉エッセイスト 山崎まゆみさんのおすすめ宿「山荘 神和苑」の総支配人。
●「隠庵ひだ路」若旦那・山腰哲也さん
漫画家・文筆家・画家 ヤマザキマリさんのおすすめ宿「隠庵ひだ路」の若旦那。
●「大和屋別荘」若旦那・奥村勇太さん
株式会社自遊人 代表取締役 岩佐十良さんのおすすめ宿「大和屋別荘」の若旦那。
●「強羅花扇 円かの杜」専務取締役・飯山正樹さん
AllAbout旅館ガイド 山田祐子さんのおすすめ宿「強羅花扇 円かの杜」の専務取締役。
\宿・ホテル検索はこちら/
※この記事は2022年11月18日時点での情報です。休業日や営業時間など掲載情報は変更の可能性があります。
※特に併記していない限り、記載の宿泊料金は平日大人2名1室利用時の1名分(消費税・サービス料込み)です。別途、入湯税・宿泊税がかかる場合があります。
※料理などは季節や天候により変更になる場合があります。
※掲載されている情報や写真については最新の情報とは限りません。必ずご自身で事前にご確認の上、ご利用ください。
※掲載の価格は全て税込価格です。
じゃらん編集部
こんにちは、じゃらん編集部です。 旅のプロである私たちが「ど~しても教えたい旅行ネタ」を みなさんにお届けします。「あっ!」と驚く地元ネタから、 現地で動けるお役立ちネタまで、幅広く紹介しますよ。