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2022.02.19

石川の伝統工芸「九谷焼」の特徴・歴史を解説!魅力を堪能できるおすすめ美術館も紹介

九谷焼は、360年以上の歴史を持つ石川県の焼きものです。高い芸術性や絵画性が特徴で、誕生時から「色絵」(五彩)や「青手」という絵付けの技法が使われています。

焼きものを探す旅行も楽しいもの。かわいいマグカップや磁器の豆皿などに出会いたいですよね。

この記事では九谷焼の魅力や窯元見学の情報などをご紹介します。

九谷焼の特徴・魅力

(画像提供:写真AC)
(画像提供:写真AC)

九谷焼の特徴は、高い芸術性です。それを支えているのが「上絵付け」の伝統と、さまざまな作家さんの層の厚さ。ずばり、九谷焼の魅力は“絵付け”にあります。

日本にはたくさんの焼きものの産地がありますよね。例えば備前焼なら土そのものの味、伊万里焼(=有田焼)なら透き通るような白磁に赤…と、特徴があります。

九谷焼は、江戸前期に登場したときから、大胆な構図の「上絵付け」が持ち味。当時は最先端の技術で、前衛的なアートだったことでしょう。

(画像提供:石川県九谷焼美術館)
青手竹虎図平鉢 古九谷 口径34.0cm 江戸前期 石川県九谷焼美術館 蔵(画像提供:石川県九谷焼美術館)

上絵付けとは、陶磁器の本焼きを済ませてから絵を描き、もう一度低温で焼き付けること。本焼きの前に絵を描くのは下絵付け(または染付)といいます。

下絵付けは効率よく製作できますが、顔料がにじみやすく、使う色も青一色に限られます(例外あり)。上絵付けは手間がかかるものの、思い通りの絵を描くことができるのです。

そんな九谷焼の代表的な表現技法を見ていきましょう。

五彩(ごさい)

(画像提供:石川県九谷焼美術館)
色絵百花手唐人物図大平鉢 古九谷 口径45.1cm 江戸前期 石川県九谷焼美術館 蔵(画像提供:石川県九谷焼美術館)

五彩とはさまざまな色を使って絵画的に表現すること。単に色絵とも呼びます。

九谷焼では緑・黄色・紫・青・赤をフル活用することが多く、写実的に描くのが特徴で、「九谷五彩」とも呼ばれています。

青手(あおて)

(画像提供:石川県九谷焼美術館)
青手梅笹に樹木葉文平鉢 古九谷 口径34.2cm 江戸前期 石川県九谷焼美術館 蔵(画像提供:石川県九谷焼美術館)

赤以外の1~4色で表現するスタイル。江戸前期の古九谷(こくたに)では緑を大胆に使った濃厚な色合いが特徴。

五彩が白地を残すことが多いのに対し、青手では白地がまったくないほどにまで塗り埋めるものもあります。

赤絵(あかえ)

(画像提供:石川県九谷焼美術館)
赤絵金彩松図瓢形大瓶 宮本屋窯 高さ39.5cm 江戸後期 石川県九谷焼美術館 蔵(画像提供:石川県九谷焼美術館)

にじみにくい赤絵具の特性を活かし、驚くほど細かく緻密に描き込んでいくスタイル。白地に赤だけのパターンもありますが、金色が加えられたものも多くあります。

金襴手(きんらんで)

(画像提供:石川県九谷焼美術館)
赤絵金彩群馬図水注 浅井 一毫 高さ23.0cm 明治 石川県九谷焼美術館 蔵(画像提供:石川県九谷焼美術館)

まず赤で塗り埋め、金色の絵具で精細に描くスタイル。幕末ごろから発展しました。明治以降に欧米で「ジャパンクタニ」と評価された原動力の一つです。

九谷焼には陶器と磁器どちらもある

日本の焼きもの産地の多くは、陶土が採掘されることが誕生のきっかけです。

九谷焼は1655年ごろ、金鉱探しの途中に磁器(じき)向きの陶石が発見されたのが直接のきっかけ。そのため、発祥時から磁器を作っています。

磁器を作る技術があれば陶器(とうき)を作ることは難しくなく、多くの場合どちらも作ります。現在では、九谷焼には陶器も磁器もあります。

(画像提供:写真AC)
(画像提供:写真AC)

陶器とは、800~1200℃ぐらいの低中温で焼き、多少の吸水性があり、指で叩くとコツコツと鈍い音がするもの。狭義では釉薬をかけたものに限定します。「土もの」とも。

(画像提供:じゃらん)
(画像提供:じゃらん)

磁器とは1300~1450℃の高温で焼き、素地のガラス質が完全に溶化したもの。吸水性がなく、陽にかざすと透光性があり、指で叩くとキンキン、チーンと甲高く響きます。

ただ、これらの定義の境界はあまり明確ではなく、ヨーロッパや中国では微妙に違ったりします。素地の色、薄さ、音などでざっくり把握しておけばいいでしょう。

中間的なものを炻器(せっき)と呼ぶこともあります。

九谷焼の歴史

(画像提供:能美市九谷焼美術館)
色絵花鳥図鉢(部分) 古九谷 江戸前期 能美市九谷焼美術館 蔵 CC BY 4.0(画像提供:能美市九谷焼美術館)

九谷焼の最初の窯は1655(明暦元)年にはすでに、藩主・前田家の命令によって、今の石川県加賀市の山中温泉近くに開かれていました。

前田家には「文化で天下を取る」といった美術・工芸品政策があり、最初から最先端アートを狙ったのです。

ところが1700年ごろ、この窯は急に閉じられました。理由は今でもナゾです。この約50年の間に作られたものは古九谷と呼ばれていて、「五彩」「青手」が特徴。閉じられはしたものの、加賀の人たちには陶芸への情熱が根付いたようです。

その約100年後、京焼の名工・青木木米(もくべい)が今の金沢市に招かれたのをきっかけに、各地に「九谷焼を再興しよう」という動きが生まれました。

木米の弟子たちや、加賀市の豪商だった吉田屋伝右衛門などが次々と新しい窯を立ち上げ、1807年~明治維新ごろにかけて木米・吉田屋・飯田屋(=八郎手)・永楽(=金襴手)・庄三(しょうざ=彩色金襴手)という5つの大きな流れ(窯元)が生まれました。

(画像提供:石川県九谷焼美術館)
絵替木瓜形向附 吉田屋窯 奥行10.6cm×幅19.3cm 江戸後期 石川県九谷焼美術館 蔵(画像提供:石川県九谷焼美術館)

吉田屋伝右衛門は大聖寺藩の協力のもと、古九谷をほうふつとさせる作品をつくり、加賀藩窯にもなりました。その後、宮本屋窯に引き継がれています。

これら、古九谷以降の江戸期の作品を再興九谷と呼んでいます。

(画像提供:能美市九谷焼美術館)
赤絵細書竜鳳凰百老図深鉢 斎田道開 江戸後期~明治 能美市九谷焼美術館 蔵 CC BY 4.0(画像提供:能美市九谷焼美術館)
(画像提供:能美市九谷焼美術館)
金襴手鳳凰文鉢 12代永楽和全 江戸後期~明治 能美市九谷焼美術館 蔵 CC BY 4.0(画像提供:能美市九谷焼美術館)

1873(明治6)年には、ウィーン万博に出品。ジャパンクタニと呼ばれて海外でも評価されました。

明治後期から大正時代にかけては、個人の芸術性が高まり、今の「日展」に入選する作品も。この時期は近代九谷と呼ばれています。

北大路魯山人(きたおおじろさんじん)も1915(大正4)年に加賀市の山代温泉を訪れ、九谷焼を学んで、初めて陶芸に開眼したとか。

戦後は三代徳田八十吉、吉田美統など、人間国宝に認定された人も出ています。

【参考文献】
芸術新聞社編『九谷モダン』芸術新聞社、2019年
北國新聞社出版局編『九谷よ永遠に 八十吉四代』北國新聞社、2015年

【画像提供】
石川県九谷焼美術館(無許可複製禁止)
石川県能美市(CC BY 4.0)

誕生の地・石川で行きたい!九谷焼スポット5選

石川県で九谷焼の美しさに触れられる美術館や体験スポット、見学可能なスポットなどをご紹介します。

石川県九谷焼美術館

(画像提供:石川県九谷焼美術館)
(画像提供:石川県九谷焼美術館)

古九谷の窯が初めて設置された九谷焼発祥の地・石川県加賀市にある、九谷焼の専門美術館です。

展示室は「青手の間」「色絵・五彩の間」「赤絵・金襴の間」などに分かれ、それぞれテーマごとに閲覧することができます。

喫茶室の「茶房古九谷」では、オリジナルの器や現代作家さんの器でティータイムが楽しめます。ギャラリーも併設されていて、気に入った器を購入することも可能ですよ。

(画像提供:石川県九谷焼美術館)
(画像提供:石川県九谷焼美術館)
■石川県九谷焼美術館
石川県加賀市大聖寺地方町1-10-13
9時~17時(入館は16時30分まで)
月曜日(祝日の場合は開館)
入館料一般560円、高校生以下280円
【電車】JR北陸本線大聖寺駅より徒歩8分【車】北陸道加賀ICより県道61号、R8経由で約5分
あり(無料)
「石川県九谷焼美術館」の詳細はこちら
「石川県九谷焼美術館」の口コミ・周辺情報はこちら

能美市九谷焼美術館

(画像提供:能美市九谷焼美術館)
(画像提供:能美市九谷焼美術館)

石川県能美市は、江戸後期~明治時代の2人の名工、斎田道開(さいだどうかい)と九谷庄三(くたにしょうざ)が活躍した地です。

能美市九谷焼美術館は、九谷焼の歴史が学べる「五彩館」、独自の世界を展開した二代浅蔵五十吉氏の作品を展示した「浅蔵五十吉記念館」、陶芸体験ができる「体験館」、新進作家の活動を見学できる「職人工房」の四館から成り立つ複合施設です。

■能美市九谷焼美術館
石川県能美市泉台町南56
9時~17時(入館は五彩館・浅蔵五十吉記念館は16時30分まで、体験館は16時まで)
月曜日(祝日の場合は翌日休館)※臨時休館の場合あり
五彩館・浅蔵五十吉記念館共通入館券430円、職人工房・体験館は入館無料
【車】北陸道小松ICより県道54号経由で約15分
あり(無料)
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九谷陶芸村

(画像提供:(公社)石川県観光連盟)
(画像提供:(公社)石川県観光連盟)

久谷陶芸村は、九谷焼の製造・卸業10社のショールームがずらりと並ぶエリア。上の能美市九谷焼美術館に隣接しています。

ここは何と言っても、例年GWに開催される「九谷陶芸村まつり」、10月に開催される「九谷茶碗まつり」が見どころ。

作家ものから普段使い用のものまで、あらゆる九谷焼が一堂に会して、お値打ち価格で展示即売されます。

もちろんイベント時以外でも品揃えは豊富。自分だけの一品を買いたいと思うなら、まずはここへ。

■九谷陶芸村
石川県能美市泉台町南22
9時~17時
無休
【車】北陸道小松ICより県道54号経由で約15分
あり(無料)
「九谷陶芸村」の詳細はこちら

九谷セラミック・ラボラトリー(CERABO KUTANI)

(画像提供:(公社)石川県観光連盟)
(画像提供:(公社)石川県観光連盟)

九谷焼に欠かせない磁器土を作る製土工場や、ギャラリー、体験工房、レンタル工房などを兼ね備えた、複合型の創作工房。「セラボクタニ」の愛称で親しまれています。

陶石の粉砕から陶土の完成までの工程を間近で見学したり、ギャラリーでは製造工程を学ぶことができます。

体験工房では、ろくろや手びねり、絵付けなどの体験も可能(ホームページから要予約)。

(画像提供:(公社)石川県観光連盟)
(画像提供:(公社)石川県観光連盟)
■九谷セラミック・ラボラトリー
石川県小松市若杉町ア91
10時~17時(最終入館16時30分)
水曜日・年末年始※臨時休館の場合あり。製土工場は稼動していない日もあります
入館料300円、高校生以下150円
【車】R8号小松バイパス佐々木ICよりR360、県道111号線経由で約5分
あり(無料)
「九谷セラミック・ラボラトリー」の詳細はこちら

九谷焼窯跡展示館

(画像提供:(公社)石川県観光連盟)
(画像提供:(公社)石川県観光連盟)

九谷焼を再興させようと江戸時代後期、私財をはたいて窯を立ち上げた豪商・四代目吉田屋伝右衛門の「吉田屋窯」の跡を、発掘された状態のままで展示しています。

昭和15~40年まで実際に使われていた登り窯の跡もあり、斜面を上手に利用した窯の仕組みがよく分かります。

江戸後期の古材を利用して明治中期に建てられた古民家(母屋)が展示棟になっていて、当時の暮らしの空気を感じることができます。

(画像提供:(公社)石川県観光連盟)
(画像提供:(公社)石川県観光連盟)
■九谷焼窯跡展示館
石川県加賀市山代温泉19-101番地9
9時~17時(最終入館16時30分)
火曜日(祝日の場合開館)
入館料350円、高校生以下無料
【車】北陸道加賀ICよりR8、県道151号経由で約15分
あり(無料)
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※この記事は2022年2月8日時点での情報です。休業日や営業時間など掲載情報は変更の可能性があります。日々状況が変化しておりますので、事前に各施設・店舗へ最新の情報をお問い合わせください。
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ミキティ山田  ミキティ山田

旬な話題を求めて、いろいろな場所を取材・撮影する調査員。分厚い牛乳瓶メガネに隠したキュートな眼差しでネタをゲッチュー。得意技は自転車をかついで階段を登ること。ただしメガネのせいでよく転びます。

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