今、一都三県のラーメンシーンは、作り手であるラーメン職人が技巧の限りを尽くして作る、いわゆる「創作ラーメン」が百花繚乱の状態を呈している。
「創作ラーメン」には、例えば、タレ別に捉えても、醤油ラーメン、塩ラーメン、味噌ラーメンなど、多岐にわたるが、とりわけ、王道(メインストリーム)であり、大多数のラーメン店において基本メニューとして位置付けられている「醤油ラーメン」は、極めてハイレベルな逸品を提供する店舗が数多く存在する超激戦ジャンル。
個人的な印象になるが、ザッと、上位30軒が提供するラーメンは、誰が口にしても素晴らしいとしか言いようのない一級品揃い。中でも最上位の10軒ともなれば、それは、もはやラーメンの範疇を超え、「日本が誇る食の芸術品」と呼んでも差し支えのないものだ。
今回の特集では、そんな一都三県における醤油ラーメンの最高峰に君臨する名店を、独断と偏見に基づき10軒ご紹介する。是非、一度足をお運びいただき、ラーメンという食べ物の魅力の真髄に触れてもらいたい。
※この記事は2020年8月26日時点での情報です。休業日や営業時間など掲載情報は変更の可能性があります。日々状況が変化しておりますので、事前に各施設・店舗へ最新の情報をお問い合わせください。
(1)らぁ麺飯田商店【湯河原】
現在の日本のラーメン界をけん引!同店の醤油でラーメンシーンの未来が見える


店舗の場所は、関東屈指の名湯として名高い湯河原。
2010年、同地で産声を上げた『らぁ麺飯田商店』は、それから10年の時を経て、今では、押しも押されもしない日本を代表するトップランナーへと成長。「『飯田商店』のラーメンの内容が、日本のラーメンの未来を決める」と言われるほど、影響力のある存在となった。
同店が提供する麺メニューは、「しょうゆらぁ麺」「しおらぁ麺」「つけ麺」の3種類。
中でも、筆頭メニューとして君臨する「しょうゆらぁ麺」は、ラーメン好きならずとも一度は召し上がっていただきたい、名実ともにラーメン界の日本代表とでも言うべき存在だ。
地鶏の丸鶏・ガラ、国産豚の肉・ガラ等から出汁を採り、数種類の醤油をブレンドしたタレを合わせたスープは、味蕾が感知するうま味の質量が圧倒的。各素材が本来持ち合わせる魅力も、最大限引き出し切れており、気が付けば、丼を持ち上げ直で飲んでしまっているほど。
合わせる自家製ストレート麺も、長さから啜り心地に至るまでパーフェクトのひと言。丼を空けない人は、この世に存在しないだろう。
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(2)ラーメン屋トイ・ボックス【三ノ輪】
鶏系淡麗醤油の巨匠!歳月を経るたびに進化する、身も心も委ねられる名杯


ロケーションは、東京メトロ日比谷線三ノ輪駅から徒歩3分弱。
下町風情が漂う三ノ輪の地に溶け込むように佇む、小ざっぱりとした外観が印象的な1軒のラーメン店。
それが、『ラーメン屋トイ・ボックス』だ。
同店の最大の特長は、絶えず己のラーメンと向き合い味の研鑽に余念がない、店主の真摯な姿勢。ほんの数ヶ月ご無沙汰している間に、提供されるラーメンの味が様変わりすることも珍しくない。「1年前の味は、今の味にあらず」とは、まさに同店のためにある言葉だろう。
『トイ・ボックス』の麺メニューは、「醤油ラーメン」「塩ラーメン」「味噌ラーメン」「鶏油そば」の3種類が主軸。いずれも高水準だが、中でも特に「醤油ラーメン」は、常軌を逸する完成度の高さを誇る。
スープに用いられる素材は、鶏と水のみと実にシンプル。が、用いる鶏については、その種類・品質ともに、厳選、吟味が重ねられ、さらに、バージョンアップが随時施される。
ひと口啜れば、舌上で、幾種類もの鶏たちが舞い踊っているかのような感覚さえ抱かされる。出汁と合わせるカエシの風味にもキレがあり、鶏の豊かなコクと絶妙なコントラストを描く。現状、日本一の鶏系淡麗醤油ラーメンだと言えるだろう。
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(3)中華蕎麦時雨【関内】
ホロホロ鳥の滋養味がシャワーのように降り注ぐ。匠の技が紡ぐ、必食の1杯!


店舗の場所は、JR関内駅から徒歩5分強。同駅からアクセスしようとすると、いささか分かりにくい場所にある『中華蕎麦時雨』だが、同店の1杯に魅せられ、何度となく足を運び続けている私にとっては、通い慣れたお馴染みの行程だ。
店主は、都内屈指の実力店『中華そば多賀野』のご出身。が、修業先の味をそのまま模倣することなく、オリジナリティを加えた形で提供している。
基本メニューは、清湯醤油系の「中華蕎麦」。
ホロホロ鳥、比内地鶏等の素材の持ち味を等身大以上に引き出したスープは、口内へと飛び込んだ刹那、密度の濃い滋養味がシャワーのように降り注ぐ超一級品。それに、乾物、節等の魚介に由来する「和」の味わいを寄り添わせることで、スープ温が低下するにつれ、体感的なうま味が増幅する仕掛け。
最小限の力でチュルンと啜り切れてしまう肌艶のある麺も、このスープとベストマッチ。
カエシのうま味の質もすこぶる良好。店主が培った匠の技が紡ぐ、奇跡の1杯だ。
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(4)饗くろ㐂【浅草橋】
スープの一滴に至るまで完全オリジナルな、創作ラーメンの極致!


ロケーションは、秋葉原駅と浅草橋駅の中間地点付近。
その辺りで場違いな行列を見掛けたら、それが、今回ご紹介する『饗くろ㐂』の在処だと考えて、まず間違いはない。
同店は、ラーメン好きなら誰もが知る、日本を代表する名店の一つ。醤油、塩、つけ麺、油そば…、全てのメニューについて、全くのゼロから『くろ㐂』ならではの味を構築。まるで、ラーメンの形を借りた別の料理かと錯覚してしまうほど、あらゆるパーツがオリジナルだ。
中でも特に、「醤油そば」は、貝を深い滋味を演出するためのツールのひとつとして捉え、貝を主役のひとつに抜擢しながらも、それに甘えない歴史的傑作。
使用する素材の持ち味を熟知した上で、緻密な計算の下、うま味とうま味を重ね合わせ、全く別次元の高みへと昇華させることに成功している。
意図的に丼の縁に付着させたカエシの甘じょっぱい風味を噛み締めながら、零れるのは感動のため息ばかり。「どうして、貝と動物系素材をここまで違和感なく自然に融合させられるのだろう」。食べ手に許されるのは、そんな疑問を抱くことくらいだ。
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(5)らーめんかねかつ【川口】
自家製の極みとでも言うべき麺が驚愕の美味さ!埼玉を代表する名店


引き続きご紹介するのは、川口の住宅地にひっそりと佇む『らーめんかねかつ』。
2013年7月にオープンした当初から、同店の実力の高さは折り紙付きだったが、昨年(2019年)10月に味をリニューアルしてからは、ちょっと、他店とは次元が違う存在へと躍進。
2020年現在における同店のレギュラーメニューは、「らーめん」「つけめん」「あぶらそば」の3種類。
いずれも、各ジャンルで日本トップクラスと断言できる名品ぞろいで、醤油ラーメンである「らーめん」の出来映えも、並大抵のものではない。
褐色のスープの中を悠々と泳ぐ太縮れ麺は、注文の都度、厨房で店主が圧延し、その場で切り出されたもの。啜ると、麺肌から小麦の香りがふわりと舞い上がり、鼻腔を心地良くくすぐる。
歯を押し返すような適度な弾力と、モッチリとした食感を兼ね備えた中華麺の模範解答のような麺は、際限なく手繰り続けることができそうなほど上質。
この麺に合わせるスープが、もっぱら、ホロホロ鳥、節系素材といった、「和」を彷彿とさせる素材で構成されている点も、心憎い。様々なラーメンを味わい尽くした通にこそ召し上がっていただきたい、とっておきの1杯だ。
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(6)オランダ軒【東岩槻】
もはや、ご当地ラーメンの領域を超越した1杯!激ウマチャーシューも絶品


続いてご紹介するのは、『かねかつ』と同じく、埼玉に店舗を構える『オランダ軒』。
店舗の場所は、東武アーバンパークライン東岩槻駅から徒歩5分程度だ。
同店は、今回の掲載店の中では異色とも言える、ご当地ラーメンを提供する1軒。
具体的には、新潟県長岡市のご当地麺「長岡生姜ラーメン」を提供するが、生姜のみがけたたましく自己主張する同系にありがちなタイプとは一線を画し、涼やかな生姜の香味をスープとカエシにしっくりと溶け込ませることに成功している。
「しょうゆラーメン」「しおラーメン」ともにオススメだが、同店の魅力を余すところなく堪能したいのであれば、「しょうゆチャーシューメン」を頼むのがベストだろう。甘辛い下味がしっとりと沁み込んだチャーシューは、何枚食べても、決して食べ飽きることがない。肉質もすこぶる良好で、ラーメンにおけるチャーシューの重要性を再認識させてくれる。
(7)創作麺工房鳴龍【大塚】
ミシュランスターの名は伊達ではない!素材が奏でるうま味の競演に酔いしれよう


店舗のロケーションは、JR大塚駅から徒歩5分強。人通りの少ない細い道沿いに佇む『創作麺工房鳴龍』は、ラーメン部門の中では数少ない『ミシュランガイド』一つ星獲得店舗のひとつとして、世界的にも有名なお店だ。
同店で最も有名な一品はカップラーメンにもなった「担々麺」だが、「醤油拉麺」が、それに勝るとも劣らない名品であることを知る者は、必ずしも多くはない。(私に言わせれば、『鳴龍』の「醤油拉麺」を食べたことがないことは、人生の楽しみのひとつをみすみすドブに捨てているようなものだ。)
圧倒的な分量の丸鶏から出汁をとったスープは、うま味の厚みを増幅させるために、牛骨、牡蠣等の異素材もフル活用。うま味に疎がなく、啜れば啜るほどに、立ち上がるうま味の力強さが増す。複雑玄妙なカエシの風味の後押しも相まって、まさに、レンゲを持つ手が止められない引きの強さを演出することに成功している。
小麦の風味芳しい自家製細ストレート麺も、スープと無常の相性の良さを示す。思わず、もう1杯食べるために、行列に並び直してしまったほどだ。
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(8)櫻井中華そば店【保土ケ谷】
端正なスープに、朴訥な手もみ麺の異色コラボ。この組合せが実に高ポイント!


引き続きご紹介するのは、神奈川が生んだ名店『櫻井中華そば店』。
ロケーションは、JR保土ヶ谷駅から徒歩3分程度。オープン前から長蛇の列ができる人気ぶりが、同店の実力の高さを示す、格好の物差しだ。
現在、同店が提供するメニューは、「中華そば(醤油)」「中華そば(塩)」「つけそば」の3種類と、それらのバリエーション。
中でも、圧倒的にオススメなのが、メニューリストの筆頭に君臨する「中華そば(醤油)」だ。
「信州黄金シャモ」の丸鶏や、鶏ムネ肉、手羽先など、等を用いた切れ味鋭い鶏出汁に、茨城県産『ヨネビシ醤油』を合わせたスープは、ファーストアタックから鶏のふくよかなうま味が際限なく口内で膨らみ弾ける、芳潤極まりない味わい。どれだけ啜っても全く衰えを見せない鶏の滋味も特筆に値する。
このスープに、細ストレート麺ではなく、あえて、朴訥な手もみ麺を合わせているのが、また面白い。手もみ麺を配することで、地方のご当地麺である「白河中華そば」を彷彿とさせるテイストを醸し出すことに成功。老若男女を問わない、良い意味で肩の力が抜けた1杯に仕上がっている。
「櫻井中華そば店」の詳細はこちら
(9)自家製手もみ麺鈴ノ木【狭山ヶ丘】
輪郭が際立つカエシと、コク深い出汁の名コラボ。自家製手もみ麺も秀逸!


次にご紹介するのは、埼玉県所沢市の気鋭店『自家製手もみ麺鈴ノ木』。
2018年10月にオープンした当初から店主の出自(都内の有名店出身)もあり、高い人気を誇っていたが、その人気に甘えることなく、着実に地力を蓄え、2020年現在、同店が提供する「ラーメン(醤油)」は、全国レベルの名品へと昇華を遂げている。
カエシのうま味をガツンと全面へと押し出したスープは、いわゆる「淡麗醤油」と呼ばれるジャンルのラーメンにおいては異色だが、そのカエシのうま味の質が尋常ではなく良好。
カエシを支える出汁の土台も極めて堅固。主役である鶏が本来持ち合わせるコクとキレを兼ね備えたうま味を、和風味豊かな魚介が押し上げ膨らませる盤石の構成であり、力強いカエシのうま味をガッチリと受け止めきれている。
このスープとコンビを組むのが、しっかりと手もみが施された自家製麺。小麦の風味も高らかで、ひと啜りしただけで、クオリティの高さがまざまざと実感できる傑作だ。なお、同店は「まぜそば」も絶品。汁なしの良し悪しは、麺の出来映えでほぼ決まる。このことも、同店の麺の水準の高さの証だと言えるだろう。
「自家製手もみ麺鈴ノ木」の詳細はこちら
(10)麺や維新【目黒】
一流淡麗醤油のお手本のような1杯。舌の感覚が鈍ったら、『維新』に走れ!


この特集の最後にご紹介するのは、各線目黒駅から徒歩3分程度の好立地に軒を構える『麺や維新』。
山手線の駅からほど近い立地、営業時間が今回ご紹介した店の中では比較的長めであることもあり、比較的アクセスが容易な1軒だと言えるだろう。
オススメは、もちろん「醤油らぁ麺」。
鶏から丁寧にうま味を引き出した動物系出汁に、風味豊かな魚介出汁をバランス良く掛け合わせたスープは、まさに、食べ手が「こうあってほしい」と望む塩梅そのものであり、寸分の狂いもない。昆布のうま味の利かせ方が極めて巧みで、スープが喉元を通過した後の余韻がすこぶる良好である点も特筆に値する。
啜り心地が官能的な自家製ストレート麺も、「このスープにしてこの麺あり」。スープを過不足なく絡め取り、口元へと運び込む頼もしい相棒。
今回ご紹介した10軒10杯の醤油ラーメンの中で、『維新』の「醤油らぁ麺」が、現在の「淡麗醤油」のスタンダードに最も近いのではないだろうか。私も、自分の舌に迷いが生じた時には、同店に足を運ぶことにしている。まさに、一流淡麗醤油のお手本とでも言うべき良杯だ。
「麺や維新」の詳細はこちら
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田中 一明(たなか かずあき)
通称「ラーメン官僚」。ラーメン食べ歩き歴20年以上、実食杯数は11,000杯以上に及ぶ。直近の数年間は、毎年700杯~800杯のラーメンをコンスタントに実食。2016年現在、日本でラーメンシーンの「今」を最もよく知る人物。